第1章 きり丸の拾い人 の段
ことは困っていた。
着替えは嬉しい。傷も乾かして、縫い直しが必要かのチェックはしたい。だが、脱いだらバレる。早着替えで誤魔化せる相手ではない。
頭の中で矢継ぎ早にどうしようか悩む・・・いや、。
こんなことを悩む原因は、彼女の変わった日常にある。
はフリー忍者だ。
忍務中は、男の忍として振る舞い、を名乗る。一人称は『僕』。
女として低くはない身長を武器に、小柄な男として飄々と暮らしている。
女として暮らしているのは、完全にオフな時だけだ。仕事でも女装は滅多にしない。
今日は休暇中だが、大荷物に遠出だった為、男の方が絡まれ難いという理由で、男のなりで外出していた。
それが災いした。
(きり丸なら見知らぬ他人でも助けてくれそうだから、女の格好で初対面のフリすりゃよかった・・・そうだよ、きり丸の気配感じた瞬間に男装解けばよかったんだ・・・あー、やっちゃった・・・でも、めんどくさかったしなー)
は頭をかく。
すると。袖口から、髪から滴はまだ落ちてきた。
「ほら、これ貸してあげるから着替えたら?」
そう言って半助が手渡したのは・・・あろうことか寝間着だった。
さぁくつろげ、楽になれと、目が純粋な好意で笑っている。
(一応、一回断ろう)
は決めた。
「あー、いいです。こんなだから、借りたら汚しちゃうし。雨宿りだけさせて下さい♪」
肩の傷を指差し、は首を横に振った。だが、半助は納得していない様だ。
「駄目。キチンと着替えて傷の手当て。自分で出来るなら服と道具だけ貸すから、自分でやんなさい」
その間に晩ごはん作るから、と半助は服を床の濡れていない部分に置く。
続いてきり丸も何かの道具箱やら布やらいろいろ取り揃えて並べていく。
半助は、が一流のフリー忍者だと聞いているので、大人として扱ってくれていた。
やすやすと世話焼かれたくはないだろうな、と必要な物だけ与え、手は出さないでおこう、と。
それが、逆にに迷いを生む。
(誤魔化せるかな?)
当たり障りのない所をまず乾かしながら、
は考えた。
どうするのが後々面倒でないかを。