第1章 きり丸の拾い人 の段
「はい、くん、これよかったら使って」
半助が手渡してきた手拭いを、は左手で受け取った。
「ありがとうございます」
とりあえず髪を拭う。
その様子を見ながら、桶を持ったきり丸が少し遠くから声をかけてきた。
「さん、先に服を着替えた方がいいんじゃない?」
半助やきり丸は拭けば平気か?という濡れ方だが、は完璧に濡れネズミ。
休暇中というだけあって忍び服ではなく、半助と同じ様な普段着に身を包んでいる。
が、肩のあたりは既に元の色がわからない程血が染みだし、少しはだけた胸元には包帯が微かに見えた。
「どうせその包帯も代えなきゃでしょ」
きり丸がガサガサと家の中を動き回る。
勝手知ったるその様子に、再びは疑問を浮かべた。
だが、聞くより早く、半助が苦笑しながら説明する。
「長期の休みは、うちで預かってるんだ。保護者代わりなんだが、すっかりバイト要員にされて困ってるよ」
「なるほど」
相づちを打ったは、別の意味で苦笑する。
(顔がちっとも困ってないです、土井先生)
どちらかといえば微笑ましい。
ではきり丸の親は?とは聞かず、はただ笑う。
笑いながら、頭で違う事を考え始める。
(しかし・・・どうしたもんか・・・)
濡れた服をパタパタさせながら、
は困っていた。
さっきまで外にいた。
すっかり濡れて困っていた所にきり丸が通りかかった。
これ幸いと、軽い気持ちで雨宿り場所の提供を頼んだ。
ここまではいい。
仮に雨宿り先でこの様に『着替え』を求められても、一般人と忍たま相手なら誤魔化せると思ったのだ。
だが・・・
「土井先生・・・」
は呟いた。
その声をしっかり危機逃さず、半助はの顔を覗きこむ。
「ん? どうした? あっ、着替え? 私のでよかったら貸すよ」
半助はニッコリ笑う。
しかし、は知っている。この男が、忍術学園の教師だという事を。その笑顔の裏には、計り知れない実力を秘めているという事を。
(本当にどうしたもんか・・・)
彼らは知らない。
目の前にいる面倒くさがりなフリー忍者が、実はという名の女だという事を。