第3章 保健委員会と手負い人 の段
「ありがと、善法寺伊作くん。ちょーだい☆」
『』は、ほくそ笑み、両手の掌を体の前で合わせてチョイチョイ手招きした。
だが、伊作は、『ソレ』を取り出す事はしない。
思案する様に顎に手をやると、首を横に振った。
「それなら、やはり怪我は僕が治療しますから、見せて下さい」
「えーっ、くれないの? ちょーだいよー☆」
『』はわざとらしくイヤイヤと身をよじらせる。
そんな『』を見て、伊作は困ったように半助に目配せした。
(まいったな・・・)
半助は伊作に、どうしたものかと頭をかく。
伊作の言いたい事はなんとなくわかるからだ。
『』が何を欲しがったのかまでは分からないが、 保健委員会委員長として、善法寺伊作という人間が怪我人を放置したい訳がない。自分で処置を施したいはずだ。
だが、『』の思惑も半助にはわかる。
知られたくない秘密がある以上、そうそう身体を他人に見られたくはないはずだ。
実際、様子から察するに、『』は治療道具だけ要求し、伊作による治療を拒否しているというのは半助にも見てとれる。
どうしたものかと、しばらく伊作と『』の攻防を眺めていると、やがて諦めた様に『』が息を吐き、
「あんまり見せたくないんだけどなぁ」
と、 袖をまくり始めた。
(あれ、まさか諦めたのか?)
半助は一瞬そう思ったが、何やら様子がおかしい。
『』はニヤリと笑い、伊作と、そして乱太郎を見ている。
そうして、まくっているのは、怪我をしていない方の腕だ。
「善法寺伊作くん、僕は今、あまり身体を人に見せたくない。忍たまくんには特にね☆」
『』は上目遣いに、少し意味ありげに、怪我のない腕を肩までさらした。
そこには、ポツポツといくつも散らばる、赤い鬱血・・・そう、まるで見る人が見れば情事の後を窺わせるような・・・
半助は訝しげにそれを見る。
乱太郎は、頭の上にハテナを浮かべ、何の事やらと首を傾げる。
だが、伊作はー
「『』さん、それって!?」
慌てて乱太郎の目をその両手でふさいで、真っ赤になる。
「『』さん、それしまって下さい!」
伊作は言うと、慌てて自分も目を背けた。