第3章 保健委員会と手負い人 の段
一方その頃、乱太郎達は医務室にたどり着いていた。
「伊作先輩ー」
部屋に呼びかける。
中には、作業に追われる忍術学園不運委員長・・・もとい、保健委員会委員長の善法寺伊作がいた。
「乱太郎、すまない、助かった」
伊作は休むことなく、すり鉢に向かう手を動かす。
だが、すぐにその顔だけ振り返った。
「乱太郎、怪我してない? なんだか血の臭いがー」
振り返った伊作は、乱太郎以外の来訪者に気付き、慌てて体ごと向き直る。
持ち前の不運ですり鉢が倒れそうになるが、かろうじて受け止めた。
ふうっと息を吐き、惨事を免れたすり鉢一式を抱き締める。
それを見ていた来訪者は、肩をクツクツ震わせながら、ゆっくり伊作に声をかけた。
「やあ、善法寺伊作くん☆」
「さん!」
現れた来訪者『』は、伊作に向かって片手を上げる。
「ごめーん、善法寺伊作くん、忙しそうなとこ悪いけど、薬、恵んで☆」
『』はニッコリ笑って手を差し出した。
「『恵んで』ってさん・・・」
乱太郎が思わず苦笑する。
対して、伊作は真顔で『』に向き合った。
「さんが怪我ですか? 忍務で何か?」
「うん、まあ、そんなとこ。今そこで小松田くんと追いかけっこしなきゃ、こんなみっともない血の臭い振り撒かずにすんだんだけどね☆ 情けないプロでがっかりした?」
『』はニッコリ笑う。伊作は慌てて首を横に振り、身を乗り出す。
「そんな事言ってる場合じゃないです。すぐ手当てを!」
膝を起こして立ち上がろうとする伊作。
それを、『』は片手で頭を軽く押さえて止める。
「善法寺伊作くん、慌てると両手の中身が台無しになるよー☆ 先にそれ、片付けて☆」
抱えたすり鉢一式から中身が吹き出しそうになるのを見て笑う『』。
伊作は、とりあえず言われるまま、両手の中の物を台の上に移動させる。
『』は壁に肩をつけないように、ゆっくりもたれかかって様子を眺める。
「布団いりますかー?」
と言う乱太郎には、
「あー、いらないー。あったら怪我うんぬんじゃなく普通に寝ちゃう☆ そんな大事にしないで」
とパタパタ手を振った。
だが、伊作は鋭い目を『』に向けていた。