第3章 保健委員会と手負い人 の段
残されたのは、呆然としたままの半助&きり丸と、うむっと頷く学園長。
学園長は自分の思いつき通りに事が進んだからか、至極満足の表情をしている。
しきりに頷き納得したのか、
「きり丸、ここ貼っといてくれぃ!」
と言い残し、破れた背景画の中に戻る様に何処かに消えて行った。
残されたのは二人。
動揺する教師と、心配する教え子だ。
二人の間に、ピューと風が流れる。
「ねえ、土井先生。さん、あっさり医務室行ったけど、いいのかなぁ?」
きり丸は、ふと呟いた。
半助に反論させる隙を与えず消えた。
同室の友人が連れて行ったフリー忍者が実は女だと知っているきり丸は、半助を見上げる。
そして、きり丸は見た。
「土井先生、怒ってます?」
呆然としていた半助が、やがてワナワナと拳を震わせ始めたのを見て、きり丸は冷や汗混じりに問いかける。
「あのー、土井先生?」
もう一度呼びかけると、半助は口元にフッと笑みを浮かべて、きり丸を見た。
「きり丸、とりあえず荷物を置いて来なさい。乱太郎もそのうち部屋に戻るだろう」
フッフッフッと声を洩らしながら半助はきり丸に言う。
きり丸は半助に、『先生はどうするのか?』とはあえて聞かなかった。
(さん、大丈夫かなー?)
いろんな意味で心配だったが、半助が追いかけて何とかするだろう。その後どうなるかは知らないが、本人達に任せようときり丸は決めた。
きり丸は、あーあ、と大きく伸びをする。
天気はいいのに、曇天の中から雷雲が現れそうな気配が漂っている。
「土井先生、後はお任せしまーす」
きり丸は伸ばした両手を頭の後ろで組み、踵を返した。
半助を残し、歩き出すきり丸。
歩きながら、頭の中にさっきから浮かんでいる言葉を必死に我慢する、
一歩歩き、二歩歩き・・・、
(あーっ、言わない方がいいのはわかってるのに言いたいーぃ!)
数歩歩き・・・
クルリときり丸は振り返る。
「土井先生」
きり丸は呼びかける。
「おんなじ部屋だからって襲っちゃダメですからね」
言い残してから、きり丸は全速力でその場を離れた。
背中から半助の
「きり丸ー‼」
という叫び声が聞こえる。
だか、振り返らず、きり丸は全力で笑いながら走り去った。