第1章 きり丸の拾い人 の段
「きり丸!! お前、くんが『倒れてる』って言わなかったか!!」
「ええっ、何ですか、いきなり!?」
きり丸が遅れて家に入るなり、半助のお説教が始まった。
それもそのはず。
が、長屋に着く迄の間にこう言っていたからだ。
「僕は動くのが面倒だったから、茂みに座っていた。きり丸が通りかかったから、怪我人相手でも雨しのげる軒先貸してくれる家を紹介してくれと頼んだ」
半助に抱えられながら、は照れた様に笑って、さらにこう呟いたのだ。
「だから・・・抱えて貰わなくても、僕は自分で走れたんですけど」
ま、怪我は確かにしてますが、と腕の中でクスクスと笑う。
半助は唖然としたが、もう走り出した手前、今さら降ろすに降ろせない。
怪我人な事は事実だからと、とりあえずそのまま長屋に先に戻ってきた半助は、遅れて帰ってきたきり丸を怒鳴り散らした。
・・・で、今に至る。
「まぁまぁ、おかげで僕は楽でした♪」
はきり丸にニヤリと笑って頭を撫でた。
「ありがと、きり丸♪」
その様子に、きり丸はハーッとため息をつく。
「なんだ、さん、元気なんじゃん」
は組の良い子のうっかりに、半助はより大きいため息をもらす。
そのままギャーギャーと何やら言い争いを始めた二人を、はニコニコと眺めていた。
(師弟を越えた仲睦まじさ、よきかなよきかな・・・しかし流石に寒いし痛い)
微笑むだけでは服は乾かない。
は裾を絞り、頭を、そして腕を振った。
ピシャッ!!
その音に半助ときり丸は振り返った。
がパタパタと全身を振っている。
飛び散った水滴が地に染みを作るが、その中に、明らかに雨ではない色合いが混ざっているのを見て、半助は慌てた。
「ごめん、くん!! 傷が開いたって言ってたね!!」
説教を止め、をちゃんと見ると、右肩からはまだ出血が続いているようだった。
きり丸に湯の用意を頼み、半助は抑え布を探す。
そんな様子を見ながらが、
(ところで、何で休みにきり丸と土井先生が一緒にいるんだ? 土井先生って既婚者? きり丸くん土井先生の子供だっけ?)
などと考えていたことなど、もちろん半助達は知らなかった。