第3章 保健委員会と手負い人 の段
おかしい予兆はいくつかあった。
変装は苦手だが『』として完璧に男で振る舞えると言っていた。
だが、茶屋を出た後くらいから、時々違和感がある。
の中にの気配が交い見えるのだ。
半助はそれを、自分の感情のせいと位置付けていた。
だが・・・
(それだけじゃない。茶屋で言われた何かか、あるいは体調か、何か不調の原因がある)
半助は、掴んだ肩を離さないまま、に微笑んだ。
「逃げないって約束してくれるまでこの手は離せないかな」
断らせない黒い笑顔で目を細める半助。
「「先生、こわーい♪」」
きり丸と乱太郎が茶化す。
は暫し考え、すぐに両手を上げた。
「降参。逃げません。速やかに治療を受けます」
抵抗するだけ面倒とばかりに、あっさりは諦める。ただ、ジロッと半助に恨みがましい目を向けることは忘れずに。
そんなを見て、半助は手を離した。
恐らくだが、逃げられても捕まえられるだろうという自信があった。それだけ、きっと状態がよくない。
しかし・・・
(こんな睨み付けられる視線がかわいいと思うのは、やっぱり私がおかしいんだろうな)
半助は状況に似合わぬ事をふと思う。
『私に色は出来ません、身体に傷がありますので』
長屋で言われた台詞が半助の中に甦る。
(充分、出来ると思う・・・)
目に力がある。たかが睨まれただけで、惹き付けられる物があるのだ。
(いかんいかん、まずは治療させないと・・・)
半助は自分に苦笑した。
それに対して、
「何笑ってるんですか、僕は怒ってますよ」
プンスカとソッポを向くにまた苦笑する。
「まぁまぁ、さん、そう怒んないで」
乱太郎がなだめる。
子供の笑顔に、は表情を緩めた。
「わかった、乱太郎はいい子だねー」
そう言ってまた乱太郎の頭を撫でる。
「ええっ、さん、僕はー?」
猫なで声できり丸が近付くと、きり丸の頭も『ヨシヨシ』と撫でる。
乱太郎はやがて、ニコリと『』を見上げて声を張り上げる。
「私、保健委員会だから、医務室に案内します! 行きましょ、さん! 」
その言葉にの目が泳いだ。