第3章 保健委員会と手負い人 の段
「「四方 六方 八方~ 手裏剣~♪」」
きり丸とが鼻歌を歌いながら隣合わせに歩く。
手には棒切れを持ち、楽しそうに前後に腕を振る。
その様子を、半助は茶屋に寄る前と同じ様に少し後ろから見ていた。
(結局、何だか聞かなきゃならない事が聞けないままだった気が・・・)
ただ、言われた事だけは消そうとしても幾度も脳裏に反芻される。
(恋慕の情ねぇ・・・昨日今日の思い込みをそう決めつけるのも、本人に失礼な気がするんだけど・・・)
目の前を歩く二人を見ながら、これで何度めかというため息をもらす半助。
きり丸は、新しいバイト先のあたりをつけてランランとしているし、は『らしく男らしく』胸を張って歩いている。
よく見れば、は怪我をしている方の手だけ、軽い腕の振りをしていた。
(庇ってはいるんだよな、やっぱり・・・学園についたら早めに新野先生に見て貰わないと・・・)
半助は考えを巡らせる。
(問題は、女だって隠してるくんが、大人しく診察を受けてくれるかだな・・・)
面倒というだけで男装していることが悔やまれる。
いっそ変装してもらって初対面の怪我人を拾装わせる事も考えた半助だが、本人が『変装は苦手だ』と言っていただけに難しい。
長屋を出てから、雨どころか雲の姿も一切見せない快晴。
何か異変が起こる訳でもなく、順調に学園へと向かう一向。
もうすぐ学園へと帰りつく。
と・・・
(あっ、そうだ)
ふと、前を歩いていたが足を止めた。
「土井先生、ちょっとだけ待つか先に進んでて下さい☆」
振り返って言うが早いか、きり丸の頭をポンポンっと叩いてから、近くの木の上にシュタっと飛びうつる。
その身のこなしは、手負いとは思えない程軽い。
「どうかしたかい?」
木を見上げながら半助が聞くが、返事はない。
きり丸が足を止めたのを見て、半助は自分も足を止めて、その場で待つ事にした。
すると、は木の上で、伸びる枝葉を影にしながら、何やら肩と腕を出す。
少し衣をめくっただけなので、恐らくどこから見ても男か女かなど解らない程度。
一瞬、怪我が痛むのかと思った半助だったが、すぐにそうではないと気付く。
怪我をしたのとは逆の腕だったからだ。