第2章 団子茶屋と甘味好き の段
(同業者・・・忍か・・・)
お婆さんは明らかに忍には見えない。きっと、この主人だけだろう、と半助は予想する。
きり丸とが話すお婆さんには、それらしさはない。
が飛ばした微かな声は、きり丸と老女には聞こえていない様だった。
「積もる話より、とりあえず団子ー」
と叫ぶに、きり丸と老女は笑っている。
(ああしてると、年より子供っぽいよな)
微笑ましい様子に思わず半助が笑顔をこぼす。
すると、店の主人が半助に歩みより、半助にしか聞こえない声でボソッと呟いた。
『気をつけなされ。お主の目でアヤツが女性(にょしょう)であることが気取られるぞ』
(えっ・・・)
半助が見返すと、老主人が困った様に息を吐く。
『相変わらず、何故か男にしか見えん見事な立ち振舞いだ。だが困った事に、アヤツが女と知り懸想する者には、どう見てもおなごに見えるようでな』
(懸想・・・)
想いを寄せ始めているという自覚はなかった訳でもない。
だが、ハッキリ指摘され、半助は戸惑う。
老人は、その戸惑いを無視し、独特の声音で言い捨てた。
『お主がアヤツを見る目、恋慕でないと言い切れるか? いずれにしろ、気をつけなされ』
そう言うと、老人は空気をガラリと変え、半助に笑いかけた。
「おんしは初めて見る顔かの? 隠居じじいのおんぼろ茶屋へよう来てくれた。座りなさい、すぐ支度をしよう」
好好爺の笑みでそう言うと、老人は店の奥へ再び姿を消す。
(同業者・・・隠居・・・元忍か・・・)
半助は、忍ばされた言葉を読みほどく。
そして、先ほど投げ捨てられた自分への言葉を繰り返した。
(恋慕・・・)
ある意味、予感は的中していたと言える。
半助の目に、きり丸はをきちんと
『』という男として接している。
だが、老人から見て、半助の方こそ、をきちんと『』と扱い切れていないらしい。
(そうは言われてもなー・・・)
どうしても、昨夜のやり取りが脳裏をよぎる。
女性と打ち明けられ、自分の寝間着に袖を通す姿、利吉に対して感じてしまった嫉妬、帰し難いと感じ抱えあげた身体。
昇華するには、まだ時間が足りない。
まだ、半助のその想いは芽生えたばかりだ。
その想いは、如実に視線に表れる・・・。