第1章 きり丸の拾い人 の段
(何てこと言ってるんだ私は・・・今日女性だと知ったばかりの人間相手に、身勝手な事言って、挙げ句に利吉君に嫉妬まがいの想いまで・・・)
半助は、繕った笑顔の裏でドキドキしながら、相手の反応を窺う。
ただ、半助はまだ、このという女のことを、よく分かっていなかった。
「ふむ」
は顎に手をやり、少し目線を下げる。
やがて、目線を上げ、拳を握りながら言った。
「利吉の反応はわかんないです。笑い飛ばすか、土井先生の気の迷いを心配して医者に連れて行くのか。ですが・・・」
「ん?」
「私は拳骨で殴ります」
拳にハーっ息を吐き着けながら、は、しきりに頷く。
軽蔑も戸惑いも、その瞳にはない。
代わりに浮かんだのは、
(やれるもんならやってみろ☆)
という挑戦的な顔だった。
決してこういう事態が好きな訳でもないだろうに、決して半助を責める目はしない。
今度こそ、半助は声をあげて笑ってしまった。
「あはははっ、君ねぇ・・・♪」
「ちょ、土井先生! きり丸どころかご近所さん起きますよ! 何考えてんですか!!」
(この人、忍のくせにこんなんで良いわけ!?)
は笑い飛ばす半助の口を両手で慌てて塞ぐ。
「ほら、さっさと笑い収めて帰りますよ!」
は呆れて、半助を促す。
押さえつけられたままこもった笑いをひとしきり続ける半助。
やがてその笑いが収まりつつあるのを見て、は両手を半助の口元から外した。
「本当に先生ですか、アナタは・・・」
「ごめんごめん、まさかそう返ってくると思わなかったから」
ジトーっと半助を睨むと、楽しそうな半助。
両極端な2人の間に、等しく月明かりが降り注ぐ。半助は空を見上げた。
「さっきまでより、晴れたね」
2人で空を仰ぐ。そこには、先程までより清々しい夜空があった。
「帰ろうか、こんなに明るいとさすがに目立つ」
「目立つとしたら、さっきの土井先生のせいです」
「傷に障るし」
「それも、人をおちょくった土井先生のせいです」
再び拳を握って苦虫を潰す。
(全く冗談でないのが困ったところなんだけどなぁ)
半助は苦笑した。そして、
を抱えたまま、何事もなく長屋へと足を返した。