第1章 きり丸の拾い人 の段
本当は、小銭を持っていたのと反対の手に、違う物も隠し持っている。
だが、それを出す気はなかった。
を抱えたまま笑う半助。
さすがに誰かに気付かれる様な露骨な大笑いではないが、暗がりの中のにも、ハッキリと半助が目尻に涙を浮かべているのが見えた。
「土井先生、笑いすぎ。小銭ばら蒔かなくてもきり丸起きますよ?」
下を指で指し示し、は呆れた。
「ごめん、ごめん」
半助は、手が塞がっているので、首を小さく竦めて謝る。
抱えた腕は今だ離されず、足を動かす気配もない。
(やっぱり面白い子なんだよな)
今日、女と知ったばかりの人間に、こんな興味を露骨に向けるのもどうかと思いながらも、半助はを降ろすつもりはなかった。
「くんの用事は終わったんだよね? じゃ、今度は私にちょっと付き合ってもらえないかな?」
笑い足りないかも?と笑顔で呟き、の反応を窺う半助。
抱えられたままのは、小さく促した。
「傷に障らない程度の時間ならどうぞ」
昼間は、『大したことない』と言っていた怪我を逆手にとる。
半助は、
「じゃ、質問2つだけ」
と、切り出す。
「1つ目。あっさりと自分の秘密を私達に話したのは何故?」
忍にとって、あまり得策とは言えないの行動が気になっていた半助は、真っ先にそれを口に出した。
が実は女だ、それは、露見すれば今後の忍務に大きく関わる秘匿事項。
にも関わらず、が今日暴露したのは、あまりにあっさりし過ぎだ。
面倒だから、と片付けていい話じゃないだろう。
「何故?」
半助は尋ねる。
すると、は事も無げにこう返した。
「利吉が、『土井先生は兄上の様な方です』って言ってたから。利吉の『兄上』になら、面倒な思いしてまで隠すことないかと思って。きり丸はついでです」
その答えには迷いがない。
(ついでできり丸にまで話して良かったのかなぁ?)
と半助は思うのだが、に『そんなもんです』と言い切られればそれまで。
「はい、2つ目どうぞ」
面倒そうには促す。
半助はつられてある疑問を口にした。
「利吉くんは知ってるの?」
と。