第1章 きり丸の拾い人 の段
はしばし目を泳がせた。
袖の中にしまいこんだ両手に、自然と力が入る。
仕方のない事だとは思うが、人は、自分と同性かそうでないかで、態度が大きく変わる人がほとんどだ。
一緒に風呂に入れるか、何の気なしに身体に触れる事がどこまで出来るか、等いろいろある。
好きな人が語り合う誰かが男か女かで、自分に生まれるのが嫉妬か微笑ましさかが変わってしまったりもする。
恋愛感情を抱くかというのもまた、大きな差だろう。
『#NAME3』を始めてから今日まで、は幾人かに、自分が女であると話した、あるいは気づかれた事があった。
その中には、女とわかった瞬間に目の色を変える輩もいたことは、の日常に茶飯事だ。
(土井先生は、『女=襲う』て人には到底思えないけど・・・)
人を見る目に、絶対と言える自信はない。だが、自分を抱える腕が、『目の前に転がってきた女をどうこうする為に出された腕』とは
には思えなかった。
(興味は持たれてる・・・単純な物珍しさ、好奇心ってとこかな・・・そのまま襲ってくる気配ではないし)
は悩んだ後、あっさりと身体から力を抜いた。
(なら、別にいいか)
袖口に仕舞った指先をほどき、すらりと空の伸ばす。
夜風が触れた指先は、少し冷たくなっていた。
(警戒が薄れたな・・・)
半助は、すぐに悟った。
「苦無じゃなさそうだけど、何を握ってたの?」
虚空を舞う指先を見ながら半助が問う。
の挙動不審な動きに、気付いていたらしい・・・『反撃する手段』を借り物の衣の袖に忍ばせている、という事に。
(まあ、珍しくもないけど)
忍である以上、常に有事の反撃に転じる術は隠し持たねばならない。
針か櫛か簪か・・・何かしらの暗器を握ってたのかと思ったのだ。
しかし、の答えは、半助の予想と少し逸していた。
「小銭」
は、音を立てず、指の間に器用に挟んだ小銭をスッと突き出した。
「利吉から、きり丸は銭の音で飛んでくるって聞いてたから、面白そうだと思って」
真顔では自分が取り出した小銭をシゲシゲと見つめる。
「くくっ・・・小銭って、くん、君ねぇ・・・」
半助は、思わず音を立てて苦笑した。