第1章 きり丸の拾い人 の段
(やっぱり綺麗な子なんだな・・・)
はなびく髪を気にせず、まだ空を見上げている。
暗くて勿体ない、と半助は思った。
太陽の下で女性の格好をして微笑めば、それはそれは可愛いのだろう。
夜闇の下で半助の寝間着で長い袖を遊ばせる仕草もまた絵にはなるのだが。
(確かに、女の形でくの一として活動したら、色の仕事がわんさかくるんだろうなぁ)
半助とて、教師である以前に、れっきとした忍だ。
そういった仕事に出会った事など、一度や二度ではない。
いい大人なので、その手の経験もそこそこある。
そんな半助から見て、は『手を差し伸べたくなる女性』にきちんと見える。
『色が出来ません。身体に傷があるんです』
の言葉が蘇る。
忍として非常に勿体ないと思う反面、一人の男としては、彼女がそういう仕事に手を染めなくていいのは、嬉しい気もした。
そう思うこと自体が忍として間違っていたとしても、また、を侮辱する事だとしても。
「あっ、少し晴れた」
小さいながらも嬉しそうなの声音が響く。
射し込む月明かりで僅かに見えた横顔は、年より幾分幼くも見えた。
「満足、満足。さぁ、もどりましょっか♪」
あっさりとは満足した。本当に空を見に来ただけらしい。
(もったいないな・・・)
半助は、ゆっくりと手を伸ばした。
下手に素早く手を伸ばしたら、忍の性でが咄嗟に避ける気がしたのだ。
ゆっくり半助はの無事な方の肩に自分の右手の平を重ねる。
案の定、はキョトンとした顔をしたものの、身体は逃げなかった。
その隙を逃さず、すぐさま、今度は持てる限りの速さで、半助は身体を屈める。
空いている左手ををの膝裏に差し入れて、一気に身体を掬い上げた。
「なっ、何やってるんですか、土井先生!?」
いきなり身体が抱えあげられた事に、は困惑を隠せない。
着物の裾が僅かに乱れるが、それは指摘せず、半助はの顔を見下ろし、優しく微笑む。
「えっ、帰るって言ったから・・・そんな格好だから動き難いだろうから抱えて帰ろうかと・・・面倒より楽なのは好きなんだろ?」
違ったかな? と首を傾げる半助。瞳の奥には、優しい色があった。