第1章 きり丸の拾い人 の段
腹ごしらえの済んだ一同が眠りついたのは、それほど夜もふけ切らぬ刻だった。
明日から学園に戻るという事や、の怪我というのも早寝の理由だが、何よりの理由は、今晩はさすがに内職をいれていなかったきり丸が、
「もったいない!!」
と早々に灯りを落としたからだ。
板の上で寝れるというを、
「女性と聞いて冷たい床で寝かせられる訳がないだろう・・・ましてや怪我人・・・」
と半助が説得し、布団2組を並べた上にきり丸を挟んで川の字で寝ることに落ち着いた。
そうして眠りについて幾刻が経ったか・・・
『・・・ッ』
動く人の気配に、半助はすぐに目が覚めた。
(くん?)
そこには、身を起こし、立ち上がるの姿。
暗がりの中、目を開いただけで身じろぎもしていない半助だったが、は半助が起きていることにすぐ気付いたらしく、
『シーッ☆』
人差し指を口元で立てきり丸を覗いた後、天井を指し示す。
は、足さばきの悪い寝間着のまま、音も立てず、天板から外へ飛び出した。
(どこに行く気だ?)
半助は、きり丸を起こさぬ様注意しながら、自分も屋根へ抜け出した。
月はある夜だが、雨の名残か雲が厚く、辺りはかなり暗い。
忍びの夜目がなければその姿は見えないだろう。
半助が夜闇に降りると、はどこに行くでもなく、屋根の上で空を見上げていた。
「くん」
小さな小さな声で呼び掛ける半助。
その声をしっかり聞き取り、は振り返った。
「すみません、起こしちゃって」
は首をすくめた。
「本当は気付かれずに抜け出すつもりだったんですけど・・・そりゃ無理ですよねー」
だって先生ですもん、と笑う。
どこかに行くという訳でもないらしい。
「どうしたんだい? やっぱり、眠れなかったかな?」
腕を組んで半助は聞く。
だが、は頭を振った。
「いえ、結構散々なとこでも平気で寝れる質です。布団なんか頂いた日にはもう、余裕で寝れます。ただ・・・」
空を見る。
「空が見たかったんですよねー」
あいにくの空を見上げて、は、残念、と首をすくめた。
一瞬の風が流れると、髪がふわりと揺らいでいた。