第1章 きり丸の拾い人 の段
一方は、半助の提案に、素直に乗っかっていいかを悩んだものの、実はこれ幸いと思っていた。
何故ならは、『学園に行きたい』のだから。
荷物からすぐに食べられる食料をいくつか拾い上げ、さっきまで食事をとっていた場所に再び腰をおろす・・・の肩に、また痛みが走った。
半助がお茶を入れ直し戻って来て、きり丸も食べ物を抱えて座り直す。
夜は確実に更け始め、外からは虫を声が響いていた。
「学園の場所は知ってるよ、そりゃ。ただ、私は部外者だからね」
はきり丸に向かって切り出した。
今までは『山田伝蔵の息子・山田利吉の同行者』だったからよかったけど、一人で行くのは不自然だろう、とは思うらしい。
((問題ないと思うけどなぁ・・・入門票さえちゃんと書けば))
時にこれでいいのかというおおらかさも見せる自分達の学園を思い浮かべながら、半助ときり丸は頷いた。
理由はどうあれ、一緒に行こうとしてくれているなら、それ幸いだ、黙っていよう。
男二人は視線でそう語り合う。
「それじゃ、一緒に・・・って、怪我してるけど動いて平気かい?」
旅の同行を認め半助が聞くと、はニコニコと笑って手をパタパタ振る。
どうやら、手を振るのが癖らしい。
「大丈夫ですよ、足手まといにはなりません。さっきも『走れる』って言ったじゃないですか☆」
抱っこで長屋に連れてこられた時の事を指し、はニコニコ笑う。
「面倒なことは嫌いなんで、ちんたら行くよりいっそ早駆けの方がいいくらいです。あっ、別にまた抱っこでも全然気にしませんよ?☆」
頭を撫でられただけで照れたくせに、いけしゃあしゃあと言い放つ。
それに対し 、半助は
「うーん・・・」
と言った後、
「じゃ、本当に抱っこで行くかい?」
と微笑む。笑顔の裏が何だか黒い。
はまさかそう返されるとは思っていなかったのか、
「自分で歩きます、走ります」
と目一杯首を横に振った。
怪我人だし、遠慮しなくてもいいのに、と半助が言うと、再びは全力でお断りをしている。
(やっぱり、からかうのは好きだが、からかわれるのは苦手なんだな)
笑いながらも分析する半助。その目は、いつにも増して優しかった。