第1章 きり丸の拾い人 の段
「仕事ってのは、『やりたくない』のと、『やらなくていい』のは、また別物でね・・・」
ふっと遠い目をして、は片手の手のひらを天に向けて息を吐いた。
(そういえば、高そうな袖や紅がいくつか入ってたなぁ・・・)
荷ほどきをしながら、きり丸がアヘアヘ言っていたのを半助は思い出す。
確かに、売ればいい値になりそうだ。
「くんさえ良ければ、置いておける物はここに置いておいてもいいよ? まあ、ここもただの借りてる長屋だから、結局差し障りのないものだけになるけど」
明日から私達は学園に戻っちゃうしね、と半助が続けると、は顎に手をやり、悩む素振りを見せる。
きり丸がこっそりと、
(土井先生、さりげなく『また来てもらう』約束しようとしてるよなー・・・わかっててわざとやってんのかなぁ?)
等と思っているとは知らない。
はで、荷物を置いておくかでなく、半助の言った別の部分に反応していた。
悩んだ後、は半助にこう切り出す。
「1,2ヶ月の内に荷物を回収させてもらえるなら、確かにちょっと預かって欲しいです。
それと、明日学園帰る時、一緒に連れて行ってもらえませんか?」
もちろんご迷惑でなければ、とは続ける。
(あっ、土井先生、ちょっと嬉しそう)
半助がの事を気に入ったのかまではわからないが、きり丸は『家に荷を置き、また取りに来る』という約束と同時に、『一緒に学園まで旅をする』という約束まで取り付けた半助が、何だかウキウキしている様に見えた。
(あんま素直な色恋で浮かれる人じゃないと思ってたんだけど・・・あっ、相手が男装の女忍びってあたりで、既に普通じゃないか)
きり丸は保護者代理 兼 教科担任である半助に、失礼な評価を与え、同時に、
(ちょっと揺さぶってみるか)
と、ニヤリと口を開いた。
「さーん、案内も何も、さん、学園の場所知ってるんだから、自分で行けるでしょ」
笑いながら、そうに言うきり丸。
背後から、
(余計な事言うな、きり丸ー!!)
という半助の気配を感じ、
(やっぱり、好きになったかどうかはともかく、土井先生、さんが気になってきたんだな)
と、きり丸は苦笑した。