第1章 きり丸の拾い人 の段
「忍務を受けた以上は、責任持ってやりますよ。だから、少しでも『やりたくない』と心が拒絶する仕事には極力当たりたくありません。仕事を選ぶ為に私はフリー忍者を選んだんです」
はお茶をすすると、湯呑みを置いた手の指を立てて1つ、2つと折り曲げる。
「色・変装・長期忍務・気の許せない相手との共同作業・一般人への暴力・飲まず食わず・・・」
指を次々折りながらは続ける。
段々、『動物の捕獲』だの『度を越えた暑さ寒さ』だの、よくわからない事になってきている。
最初の方はともかく、終盤は、『面倒な事は嫌だ』という事につながる様だ。
きり丸が、
「そんだけ条件あったら、仕事選ぶのも大変でしょー」
と言っているが、半助はそう思わなかった。
(殺傷や策謀が嫌だとは言っていない・・・血が絡む仕事ならいくらでも合いそうだな)
忍として、綺麗な仕事ばかりしろとは言えない。色を選ぶか血を選ぶかも、フリーである以上、人それぞれだ。
半助は、弟の様な山田利吉を思い描く。
売れっ子、予約が取れないフリーランスも、人に言えない苦しい仕事も抱えている事だろう。
ふぅっと息をついて、半助はの頭を撫でた。それは、は組にする様な、条件反射のものだった。
だが・・・
『ボッ!!!!!』
何かが沸騰する音が聞こえた様な気がした。
いや、実際には音などしなかったのだが、聞こえたと思うくらい解りやすく、が顔を真っ赤に染め上げている。
(えっ??)
半助は慌てて手を引いた。
きり丸が何やら可笑しそうに腹を抱えだす。
は、怪我がない方の腕を大きく振りかざした。
「いきなり何するんですか、土井先生ー!?」
手刀が鋭く半助の首を狙う。易々と喰らいはしないが、的確に急所を狙う一撃に、半助は焦った。
「ちょ、ちょっと、くん!?」
「今の会話のドコに、頭を撫でたくなるところがありましたぁ!?!?」
焦りを隠さず、はフーフーと息を吐く。威嚇のつもりらしい。
子供らしいというよりは、きちんと女性と言える年齢。色は出来ないと言いながらも、では経験がないかと言われればそうではなさそうな雰囲気を醸し出している。
だが、半助の寝間着を纏い、自分の素性を語るは、庇護欲をそそった。