第1章 きり丸の拾い人 の段
言葉の終わりだけ、の声色が下がった。しかし、声の変化以上に、まとう空気が一気に変わる。
「『僕がであろうとすれば、そうそう気付く人はいません』」
ニヤリと笑う。そこには、の気配しかない・・・そう、胸元が緩んでさえいなければ。
(・・・一流は伊達じゃないって事か)
利吉の友達の実力の片鱗を見て、半助は嘆息した。
きり丸はといえば、
「すっげー、すっげー☆」
と興奮している。
そんなきり丸を眺めた後、は、スーっと目を閉じ、また開く。その瞬間ー
(あっ、空気が戻った・・・)
が『』を解いたのがハッキリと、半助ときり丸に伝わった。見事な技だ。
すっかりただの『食事中の女性』に戻ったに、半助は賞賛する。
これなら、たとえ変装が下手というのが事実でも、充分に使える。
「という事は、くんは、基本は男装で活動するくの一ってことか」
確認する様に言いながら、半助は持っていた椀を下ろす。
肩を庇いながらゆっくり箸を進めていたの椀は、まだ半分しか減っていない。
話しながらな為、より時間がかかるのだが、気にせずには首を横に振って半助の言葉を否定する。
「違います、くの一じゃないです」
キッパリとした口調。
「絶対に違います」
さらにもう一度否定された。
(何が違うんだ?)
半助は、そしてきり丸も首を傾げる。
女の忍びがくの一、それの何が違うというのか。
二人が疑問に思っていると、は箸を置き、自分の胸元を指差した。
「私には色の仕事が出来ません、ここに傷があるので」
さっきまでは包帯で、今は頼りない衣で覆われた胸のど真ん中を指差す。
単なるさらしではなく、古傷隠しの包帯だと指し示した後、は再び食事を進める。その顔に、悲壮感はない。
あっけらかんと、は笑った。
「色の一つもしないで『くの一』を名乗るとは、常より身体を張っている本物のくの一達に失礼です。だから私は男の成りで『忍』として生きています。男の方が、格段にそういう仕事の依頼も減りますし」
そして仕事は選びます、とイタズラっ子の様にはやはり笑っていた。