第1章 きり丸の拾い人 の段
((ええっと、じゃあ・・・))
半助ときり丸はそれぞれ少し悩んだ後、こう口を開いた。
「くん」
「さん」
違う名でを呼ぶ半助ときり丸。
お互いの口から出た名に、二人は『ん??』と顔を見合せた。
「えっ、土井先生、何で? 男の格好してるから『さん』でしょ?」
「甘いぞ、きり丸。これは、『男の服を借りている女』の格好だ。どう見ても男には見えないだろう? だから正解は『』くんだ」
で、いいよね? とを見る半助。
は、にっこり笑うと、半助に頷いた。
「土井先生、正解です」
間違った呼び名をしたきり丸には、あえて声をかけない。どうやら、伝子さんの様な徹底派の様だ。
きり丸は、納得仕切っていないらしく、頭をポリポリかいている。
一方、半助は呼ぶ名はわかったものの、『さん』なのか、『くん』なのかで悩んだ様で、間が空いただけだった。
「じゃあ、今はさんでいいんだ?」
きり丸がを覗き込み聞くと、はきり丸にも、
「そうそう」
と返事をする。
コロコロと笑顔を見せる性格自体は、男装していた時と、さして変わらない。なのに・・・
(何だ?)
半助はマジマジとを観察していた。
(こうやって見てると女性にしか見えない。だけど、さっき長屋に戻って来てやり取りするまでは男にしか見えてなかった。服装と先入観だけでこうも違うものか?)
忍びの性か、気になってしまう。
「土井先生ー、そんなに見られると照れますよー☆」
は手をパタパタ振った。だが、言葉とは裏腹に、本当に照れているようには見えない。
(やっぱり、地の性格は変わらないんだな)
基本、どちらかといえばの調子は軽めの様だと半助は分析した。
(・・・何で急にちゃん女性に見える様になったんだ? 確かにさっき、しどけない姿を見はしたけど・・・)
半助が疑問に思っているのがわかったのか、答えは本人から証された。
「私は、変装は苦手です。しかし、演者であるとは思っています。目的の者になりきるのは得意です。ゆえに、普段の『僕はという男を完全に演じているのですよ』」