第1章 きり丸の拾い人 の段
(平常心 平常心・・・)
目が合うからいけないんだと、半助は傷口に集中した。
しかし、は堪え性のある方ではないらしい。
「土井先生、痛い!!」
「先生、優しくして!!」
「っ、つう、もうダメぇ・・~!!」
目に涙を浮かべて、半助を睨みつける。
別に何てことない台詞なのだが、女と宣言してきた着崩れたから発せられると、一気に怪しさを増す。
(・・・この子は・・・相手によっちゃ、襲われても文句言えないぞ・・・)
半助は動揺を隠しながら傷の洗浄・処置を続ける。
心の乱れから、手付きは無意識に荒くなり、その度にから苦悶の声が洩れる。
端から見ていたきり丸は、半助の心をしっかり代弁した。
「さん、反応がいちいちエロいっすよ・・・土井先生、同情するけど手ぇ出しちゃダメですからねー」
あぐらをかいて、両手をその間につけた体勢で、きり丸は笑って釘をさす。
その言葉に、半助とは抗議した。
「きり丸! 指摘してくれるのはありがたいが、余計なことまで言うな!!」
「エロいって、痛いって言ってるだけで何が悪いの!? 同情されるのは私!!」
気持ち赤くなりながら言う半助と、単純に文句を言う。
その両方を、きり丸は
「へいへい」
と聞き流した。
(だって、どう見ても土井先生、落ち着きないし・・・)
体を前後に揺らしながら、きり丸は傷と格闘し合う二人を眺める。
しばらくそうしていると、半助が布を傷口に押さえつけ、きつめの圧迫で縛り上げると、仕上げにポンっと包帯を叩いているのが見えた。
「はいっ、出来た!!」
「痛ーい!! 最後の『ポンっ』てヤツいります!? いらないですよね!? 絶対いらない!!」
してやったりと腰に手をやる半助と、肩を押さえながらお礼でなく文句を言う。
叩かれた衝撃が傷に響いたのか、本気で怒っている。
だが、半助は、よくやり遂げた自分、と安堵しながら得意気に笑っていた。
いつしか、外の雨は止んだのか、雨音が消えているのに、きり丸が気付いた。
「ついでに、胸の包帯も一回外して干したら? 雨止んだみたいだし。あれだけ濡れたんだから、包帯湿気てるでしょ?」
きり丸は何気ない口調で爆弾を投下した。
肝心の二人は再度凍りついた。