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名の無い関係

第17章 離れる距離と近付く距離


季節は巡り初夏を迎える心地よい風が壁上を抜ける。
僅か数ヶ月前までそこは平和な人類の領土だったはずなのに、今は巨人の闊歩する土地となってしまったウォール・マリア内地。
これ以上の巨人の侵入を許すわけにはいかないと、中央政府は防衛に力を入れるようになり新たな対巨人武器の研究開発や立体起動装置等の装備品支給率は上がったが、調査兵団への軍事予算は大幅カットされ駐屯兵団と憲兵団に別けられている。


「本来ならばこんな事をしている暇はないはずなんじゃがな。」

『こんな事とは酷い言い方ですね、これも立派な軍事協力の一環でしょう?』


チェス盤を挟み、紅茶を傍らにお互いの腹を探り合う攻防戦が繰り広げられる。
チェスの状況は初老の紳士の方が優勢のように見える。
駐屯兵団司令官であり、現人類領土南部最高責任者ドット・ピクシス。
今日のアゲハの仕事は、今後にも予想される巨人侵攻時における駐屯兵団と調査兵団の軍事協力会議、のはずだ。


「実際、どうなんだ?」

『何とも言えないですよ、あれ以来一度も外に出させて貰ってませんからね。』

「外のことより先に中のこと、か。」

『皆さん守るモノが多いのでしょう。』


それに私達が出ない方が得をする方も多いのでしょうし、とアゲハは皮肉を混じらせる。
そしてニヤリと笑った。


『チェックメイトです。』

「いやぁ〜手厳しい。君は強いな!」


それは今の言葉なのか、それともチェックメイトを宣言したからなのか。
まるで裏のない笑顔でピクシスはそう言ったが、彼のアゲハを見る瞳は笑ってはいなかった。
品定めをしているような、真剣さと厳しさが光る。


「さて、そろそろお互いに腹を割って話しをしよう。君達(調査兵団)は私に何をさせたいのかな?」

『何かさせるだなんてとんでもないですよ。』


同じ様に満面の笑みで返したアゲハは紅茶に口を付ける。
程よい苦味と爽やかな風味が口の中に広がった。


『私達(調査兵団)はただ、無事に通りたいだけですよ。』


外への唯一の扉。
その開閉には駐屯兵団の協力が必ず必要になる。
今では扉そのものの開閉作業の協力だけだった。
だが、今回エルヴィンの考案した方法は違う。
トロスト区からの出発時には、荷馬車は最小限にし一気にある程度の距離まで駆け抜けてしまうというもの。
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