第24章 秋の夜長
アゲハの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろうと思った。
恐らく今夜ここに戻っては来ないだろう。そう思ったからシャワーを借りに来た。
現場に戻って来てまた一緒に飛べる、戦える。
それだけで十分だ、今はそれだけでいい。そう思っていた。そう考えようとしていた。
「…ックソ、くそッ!」
入る前には無かった真っ白なバスタオルに気が付き、腹の奥底からマグマの様な熱が込み上げた。
エルヴィンと食事に出かけたと聞いて、今夜はここに戻る事はないと思っていたのに。
ポタポタと暖かかったお湯がすっかり冷めた雫が落ちる。
「…情けねぇな。」
主人のいない部屋で、主人ではない自分が一人。
色恋にうつつを抜かしている暇など無い事は充分にわかっている。
けれど、制御の効かないドロドロの感情が溢れて止まらない。
「…アゲハ。」
虚しく彼女の名前を呼ぶ声だけが響いた。