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名の無い関係

第17章 離れる距離と近付く距離


ミケに頼まれ、エルヴィンの執務室に訓練報告書を出しに来ただけだった。


「また君に嫌な事を頼む事になるな。」

『今更でしょ。』


ノックしようとしたドアの向こうから聞こえた声に手が止まった。
同じ兵団にいながら、お互いの立場が大きく変わってしまい全く顔を合わせる事が無くなってしまった。
最後に会ったのはこの部屋にエルヴィンの荷物を運び込んだばかりの頃だ。
元気にしているのはハンジからの話や他の仲間達の噂話で聞いていた。


「あの時は君しかいなかったんだ、本当に辛い事をさせた。」

『別に私は平気、それに辛かったのはリヴァイ。』

「あぁ、そうだな。だが、今のリヴァイがあるのも君がいたからだろ。」

『仮にそうだとしても。私がリヴァイから大切な人を奪った事は変わらない。』


なんの話だ。
アゲハが俺の大切な人を奪った…?


「彼等を殺したのは巨人だ。」


エルヴィンの言葉に、一気に過去の出来事がフラッシュバックする。
初めての壁外調査、巨人に無惨に殺された二人の仲間の姿。
そしてエルヴィンに初めてアゲハを紹介された日の事。
今なら解る。
彼女が壁外調査に参加していなかった不自然さ、エルヴィンの何かを隠す様な含みのある言い方。
あの時、エルヴィンの陰で動いていたのはアゲハだったに違いない。
ならばそれはどこから、いつからだったのだろうか。
王都地下街でエルヴィンに捕らえられた日からなのか、ニコラス・ロヴォフの使者を名乗る男が訪ねて来た日からなのか。それともそれよりも前だったのかもしれない。
何故か身体が震え手にしていた書類が汗で歪む。
真っ黒なドロドロとした物凄く熱く嫌な何かが自分の中で大きく膨らんでいくような感じがした。


『エルヴィン、私はあなたのモノだから今更どんな事を命じられても頷くよ。誰かを殺せと言われても騙して利用して捨てろと言われても。でもね、もうリヴァイの事だけは利用するような事はしたくない。リヴァイは殺せない。』

「わかっているよ、大丈夫だ。リヴァイはこれからの人類の未来に必要な存在だからな。」


その後の記憶が曖昧だ。
報告書についてミケから何か言われる事はなく、どうにかエルヴィンの元へ届けたのだろう。しかし、どうやって届けたのか解らない。
ただ、自分の中で膨らんだイヤな感覚だけがはっきりと残っていた。
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