• テキストサイズ

名の無い関係

第16章 その日…


調査兵団第二部隊がウォール・ローゼまで到着したのは、すでにシガンシナ区が放棄された後だった。
ウォール・マリア内南側で暮らしていた人々がトロスト区にどんどん雪崩れ込んで来ている。
これでは馬での移動などとてもではないが出来ない。
壁上を扉まで移動するにしても、配置されてはいたが使う事など無いと思われていた大砲やその砲弾、それを動かし巨人を迎撃しようとしている駐屯兵団の兵士達で大混乱状態だ。
沈没しそうな程に人を乗せた貨物船が何艘も港に寄せられている。
陸路も水路も壁上路も満足に使用できる状態ではなかった。


「何するつもりだ?」


立体起動装置の確認を始めたアゲハに気が付いたのはミケだった。


『一気にマリアまで飛ぶの。まだ逃げ切れない人達がそっちにはいるはずだから。』

「待て!俺達の今の任務は迎撃に備えここ(ウォール・ローゼ壁上)で待機することだ!」

『なら尚更よ!迎撃するにもこれじゃまともに戦えない!』

「ダメだ!エルヴィンの命令を忘れたか?!」


ミケの言葉にアゲハは戸惑いの顔を浮かべた。
キースの命令を受けたエルヴィンは、無傷の新兵、負傷兵を含む既存兵で構成した第一部隊と、少数精鋭既存兵で構成した第二部隊に調査兵団を別けた。
そして第一部隊をキースが率い中央政府の勅令王都防衛任務に、第二部隊を自分が率い巨人討伐に引き返すと決めたのだ。
しかし、ウォール・ローゼの扉まで戻った所でこの有様だ。
トロスト区に繋がる扉の前には暴徒と化した民衆が「開けろ!」と集まっており、今は開閉不可な状態。
このままではどうにもならないと、エルヴィンはハンジ他数人を連れてトロスト区内の駐屯兵団基地へ向かったのだ。


「こちらが合図の煙弾を撃つまで待機。だが、最悪の状態になった場合は各自の判断に任せる。」


エルヴィンはそう言っていた。
彼の言う「最悪の状態」は今だろう!とアゲハは言う。
だからトロスト区上空を立体起動装置を使用して進む、と。
しかし、そんな事をしてガスを無駄に消費してしまったらこの後に起こり得る巨人との戦闘に支障が出るのは明らかだ。


「エルヴィンの言う最悪の状態は今では無い、耐えろ!」

『…了解。』


普段は物静かなミケに怒鳴られ、この異様な雰囲気に飲まれ焦っていたのは自分の方だったとアゲハは頭を下げた。
/ 130ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp