第14章 最強争奪戦
「まぁたハデにやっちゃったねぇ。」
翌日。
すでに兵団内では昨日の話が広まっていた。
噂には余計な装飾が付くのがつきものだが、今回は「最強争奪戦」なんて言われているらしい。
ニヤニヤと現在の最強保持者、リヴァイに話し掛けたハンジは整った彼の顔が腫れている事をひやかす。
「アゲハも酷いねぇ、これ、マジで入ったんだろ?」
本気でやれと言ったのは自分の方だ。
彼女の攻撃がどこに当たろうが、例え歯が折れる様な事があったとしても文句は言えない。
「でも最終的にはリヴァイがマウントを取ったんだろ?」
「…煩ぇ。」
「まぁ、仕方ないよね。強くたってさ結局のところアゲハは女。力比べじゃ男のリヴァイには勝てないよ。」
「…うるせぇ!」
ガシャン!とテーブルの上の食器が揺れる。
リヴァイの八つ当たりの一撃は、ハンジの目の前に落ちた。
「リヴァイ、少し落ち着きなよ。アゲハとちゃんと話しをした方がいい。」
周りの驚愕と恐怖の視線とは別に、いつものふざけた雰囲気が全くないハンジの声は、怒りに満ちているかの様。
メガネの下の目も全く笑ってはいない。
「…何を話せってんだよ。」
「簡単な事だろ?今の君の気持ち、考え、全部ちゃんと伝えればいいだけじゃないか。」
それを言うならアイツだって、とリヴァイは呟く。
アゲハだって自分には何も話してはくれない、と。
「私から見た事でしか言えないけど。アゲハはいつもちゃんと君には話している様に見えるけど?」
「どこが。」
「対人戦闘ではアゲハは君よりも弱い。訓練に手を抜く様な事はしない、って。」
ほら、アゲハはあんなだから逆に嘘ついたりする方が苦手なんじゃないかな、とハンジは言った。
「………。」
リヴァイは黙って立ち上がる。
「アゲハは執務室だよ、行くなら差し入れ持って行ってあげてよ!」
本当は自分が届けようと思っていたんだけど、とハンジは軽食を指差す。
執務室にいると言うことは、苦手な書類仕事をしているのだろう。
きっとまた、溜め込んでいたに違いない。
「…まったく、世話のやける友達だよ。」
愚痴りながらもハンジの表情は明るかった。