第6章 シェイクアウト
深夜。
寝汗の気持ち悪さに目を覚ましたリヴァイは、足音を殺し廊下を歩く。
このまま外へ、訓練場の裏にある井戸へ行って汗を流すつもりだった。
前回の壁外調査で負った怪我の治りはよかった。
そもそもひどい怪我だったわけではなく、砲撃で飛んで来た何かにぶつかって負った打撲と、その勢いで態勢を崩して着地した時の捻挫だけだった。
「どうしてですか!」
『ダメなものはダメ!』
こんな時間に自分以外に出歩く奴がいるなんて、と声の聞こえた方を避けようとした。
消灯時間後の出歩きは禁止されている、見つかったら罰を与えられるのはわかっている。
それに加え聞こえたのは男女の声。痴話喧嘩の巻き添えを食うのは嫌だ。
「アゲハさん、なぜ?!」
『気持ちは嬉しいけど。』
「けど、なんです。俺じゃなくリヴァイからなら良かったですか?」
思わず足が止まった。
なぜここで自分の名前が出てくるのだろうか。
「アゲハさんにとってリヴァイは特別なんですよね、わかりますよ。でも、俺のアゲハさんへの気持ちも特別なんです!」
だからもう、兵団を辞めてほしい、自分と結婚してほしい。
ソーマはそう言った。
知らなかった。それにまったく気が付かなかった。
むしろアゲハはエルヴィンとデキているのかもしれないと思っていた。
『ソーマ、悪いけどその気持ちには答えられないよ。私達は兵士であって、仲間であって、今は仮にも上官と部下。』
「わかってますよ、そんなことは!!」
『…ならはっきり言うよ。』
アイツが兵団内、特にアイツより若い兵士や入団が後の兵士達からやたらと好かれているのは知っていた。
そんなアイツが俺なんかまで、他の連中と変わらず接している事をよく思っていない奴が多い事も知っていた。
『私を抱いて気がすむならそうしたらいい、でもそれだけ、だよ。』
「違う、俺は…!」
『ソーマ、今は疲れて迷ってるんだよ。』
だから休みを取って落ち着きな、とアゲハはいつもよりもはるかに優しい口調で言った。
ソーマは無言で逃げる様にその場を走り去った。
なぜか隠れて覗いていたような状態のまま、俺は動けなかった。