• テキストサイズ

名の無い関係

第5章 タオル


深夜、汗と埃にまみれた身体を屋外井戸で洗うのが日課になってきてしまった。
他の連中が眠っている真夜中、見つかったら罰を与えられる。
兵舎を抜け出し訓練用の森で一人あの夜にアゲハに言われた事を考える。
訓練機を使うのは流石にまずい。だからこうして森にいる。
筋力の問題はなかった。彼女の言った『覚悟』というのが問題だった。


「っくしょう!」


何度か試してみたが身体が本能が拒否する。
頭では理解しているはずなのに、いざとなると出来ない。
目的よりも少し上、その少し、が克服出来ない。
上がった息を整えようと木の幹に寄りかかり座る。
あの夜以来、日中の訓練で彼女をよく見るようにした。
まるで猛禽類。
巨人に見立てたハリボテに斬りかかる彼女は確かに目標の上からだった。
獲物を鋭い爪で引き裂き飛び上がる。
そしてその速さには自分も追い付く事が出来なかった。


「クソっ!」


シャツが汗でベタっと張り付いて気持ちが悪い。
今夜はこの辺りで切り上げだな、と立ち上がり向かうのは昼間でも人気のない屋外井戸。
真冬ではないが、深夜の井戸水は冷たい。
けれどこの汚れたままで眠るなんて出来ない。


『ちょ、リヴァイ!また夜中に水浴びしてるし!』

「なんでいやがる。」

『それはこっちの台詞!』


よりにもよって一番顔を合わせたくない厄介な奴に見つかってしまった。


『まったく!…静かについてきて。』

「…っち!」


今回ばかりは大人しく彼女の言うことを聞いておくべきだろう。
早く洗い流したかったが、諦めるしかなさそうだ。
前を歩く彼女に大人しく付いていく。


『今夜の夜勤が私だって知らなかったの?』

「お前の勤務まで把握する必要ないからな。」


兵には各所属隊のそれぞれの訓練の他に、兵団に所属する兵としての勤務がある。
夜勤もそのうちの一つ。
兵の無断出入りや兵団内に保管されている武器や立体起動装置を悪用しようとする輩が盗みに入る事の無いよう、夜間帯の見張りが仕事。
その見張りが今夜はアゲハだったらしい。
ちょうど休憩に入り、自室に戻る途中に使った近道で遭遇したと彼女は言った。
連れてこられたのは二度目の彼女の私室。
ここで説教するつもりなのだろう。
/ 130ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp