第20章 星空と月
一人残ったシャルロット様が、ポヤンとした顔で二人を見つめていた事には気が付いていなかった。
日々を平和という退屈な中で過ごしている彼等にとっては、非日常的な事はどんな小さな事でもとても甘美な刺激なのだろう。
すぐに二人の事は噂となり広まってしまった。
調査兵団の若い兵士は、団長と人類最強のネコだ、と。
『…最悪。新兵が減ったらリヴァイのせいね。』
確かに所属する人員の中で男の数の方が圧倒的に多い兵団内では、苦楽を共にする内に友愛と恋愛の境が曖昧になる事は珍しい事では無い。
しかし、それを表立って堂々と公表している者はいない。
「何もなく済むとは思わなかったが。本当に君には驚かされてばかりだよ。」
新兵の入団が減ってもいいと言える程に、支援を申し出てくれる貴族のご婦人方が増えたとエルヴィンは笑った。
男女であってもそれは死を側に置いた、悲恋を思わせる物語になるのだろう。更にそこに同性であるという障害がついたなら、退屈凌ぎの物語が尚更面白くなるのは当然だ。
『素直には喜べない。』
「感謝しろよ、俺の咄嗟の演技のおかげだ。」
『イヤ!だいたいね、なんでネコなのよ!』
二人に可愛がられ守られてると思われたのが屈辱的だ!とアゲハは不貞腐れてしまう。
「昨夜の君は本当に可愛らしい美少年だったから仕方がないよ。」
普段よりもワントーン、優しく甘ったるくしゃべるエルヴィンに、リヴァイは呆れ顔。
何度も目にした事のある場面だが、見慣れないものだとこぼす。
他の兵達の前では絶対に見せないアゲハの甘えた様な姿も、それを優しく宥めるエルヴィンの姿も、普段の外向きの二人しか知らない兵達が見たらどう思うのだろうか。
「付き合ってられねぇな。」
「リヴァイ、君もそう思っての演技だったんたろ?」
はぁ、と溜息を一つ。
テーブルに沢山広げられている手紙の内容はどれもこれも、リヴァイが蒔いた種から芽吹いた妄想話ばかり。
それを読んでアゲハは機嫌を損ねてしまったのだ。
「別にアンタはアンタだろ。何を着てようが変わらない。」
『そんな事わかってる!私が気に入らないのは、そこじゃない!』
「はぁ?」
『私は戦える!二人に守られてると思われたのが屈辱的なの!』
アゲハはそう言うと部屋を出て行ってしまった。