第20章 星空と月
今までは知らない男に誘われるまま、何人ものパートナーをしていた。
「あら、どなたかいらっしゃるのですか?」
頭上から聞こえた声に飛び起きる。ベビーピンクのドレスが目に飛び込んだ。マズイ!と思ったが遅かった。
「あら、貴方は確か…。」
ランスロット伯爵の末の妹、シャルロット様が立っていたのだ。
過去に挨拶をした事はある。
けれど彼女にとっては数多の中の一人だったのだろう。
完全に今夜の挨拶が初めてだったと思っているらしく、「スミス様の部下の方」と言われてしまった。
ならば最後までそれを通そうと、アゲハは慌てて立ち上がる。
『これは失礼致しました。まさかシャルロット様がいらっしゃるとは。』
「私、ダンスが苦手なんです。」
だから抜け出して来てしまいました、と彼女は綺麗な笑顔を浮かべた。
同性のアゲハが見ても可愛らしく、柔らかな表情。
大きくてキラキラした瞳が言葉を求めてアゲハを見つめている。
『ここは冷えます。中へお戻りになられた方がよろしいかと。』
「あら、私そんなにか弱くなくってよ。」
ほら、と手を握られる。
これは勘違いでなければ、シャルロット様からお誘いを受けている、という状態だと理解するのに時間はかからなかった。
もしかすると、抜け出して来たのではなく、追い掛けて来たのかもしれない。
貴族特有のお遊び、だ。
『シャルロット様、いけません。わた…。僕の様な輩にそう簡単に触れては。』
「どうして?」
『兵士の手は血で汚れています。貴女の様な方が触れていいものではありません。』
頭をフル回転させて思い出すのは、エルヴィンの言葉。
彼が女性のお誘いをやんわりと断る時にどうしていたのか、なんと言っていたのか、記憶の引き出しを全部ひっくり返して探す。
「なら私とお話しをして下さいませ。」
『話、ですか?』
兄はいつも調査兵団の話をしています、と彼女は言った。
壁の外にいるという巨人の話、その巨人との戦いの話、それはまるで未知の世界を冒険する様な楽しい事なのでしょう?とシャルロット様は目を輝かせた。
わかっている、何も知らない人達からしたら自分達のやっている事がどれだけ辛く厳しい事なのか理解出来ない事ぐらい。
けれど、こうあからさまにされると悔しさや怒りがフツフツと湧き上がってくる。