第20章 星空と月
見て見てあの殿方。調査兵団のスミス様よ。
なら、あの小柄な方が人類最強の殿方かしら。
でももうお一人いらっしゃるわ。
まるでお人気みたいで綺麗な子ね。
あんなに可愛い子まで戦っているのかしら。
「…っち、煩ぇババァ共だな。」
『聞こえちゃうよ。』
披露宴会場の隅。
エルヴィンは愛想良く挨拶回りをしている。
最初こそそれに同行していた二人だったがはやくも離脱、こうして目立たない様に壁の飾りになっていた。
しかし、見慣れない顔が目立たない訳がない。
堂々と交わされるこちらを伺う会話に、リヴァイの我慢がそろそろ限界値を超えそうだ。
『あれがあの人達のやり方。女性から声をかけるのははしたない事だからね。』
興味を持っている事を気が付かせ、男の方から話しかけさせる、これがここでのやり方だ。
逆に言えば、女性に興味を持たれてしまったら嫌でも話しかけなければならない。
今まで何度もお呼ばれしてきたアゲハにとっては、見慣れた光景だが今回は勝手が違う。
この場にいるアゲハは男のフリをしているのだ。
「ならお前が行け。」
『嫌だよ、リヴァイとここにいる。』
リヴァイのジャケットの裾を掴んでそう言ったアゲハは、どこか顔色が悪い様に見える。
ランスロット伯爵には最初に挨拶を済ませた。
あとはエルヴィンがこの場にいれば、自分達は用済みのはず。
「リヴァイ、ちょっとこっちに来なさい。」
そう考えていたのが甘かった。
貴族達は人類最強の男にとても興味を持っているらしい。
「気分が悪いなら外に出てろ。」
用が済んだら俺も行く、と小声でアゲハに伝えると煌びやかな会場の中でこちらを呼んでいるエルヴィンの所へとリヴァイは行ってしまった。
残されたアゲハは、隠れる様に会場のホールを抜け出した。
夜風が冷たく心地よい。
ホールから少し離れた庭園まで出て、人目がない事を確認すると脱力して座り込む。
愛想笑いも必要ない、ドレスも化粧もしていない。
嫌だった物がないはずなのに、今までと同じくらい疲れてしまった。
『やっぱダメだー。』
そのまま両手両足を伸ばしゴロッと横になる。
ホールからはダンス音楽が聞こえ始めた。
あのままあの場にいたら、誰かをダンスに誘わなければならなくなっていた。