第2章 名案
「ねえ、俺とデート、してみない?」
天童の奇想天外な提案を聞くと、瀬見は顔が歪み、大平は吹き出しそうになる豚汁を辛うじて飲み込み、汁椀をテーブルに置いて軽く咳払いをした。
天童は、二人の反応を楽しげに見つめながら、「あ、若利くんも連れて行くから心配しないでネ」と電話の向こうに補足説明をした。すると、牛島がスプーンを置いて彼に視線をやった。が、天童はそれを無視した。
「デートさ、なにをしたい?」
携帯の向かい側から、弱々しく、少し躊躇っているような女声が聞こえたが、内容は聞き取りにくい。
「了解!じゃあ土曜日の午後2時駅で集合ね。楽しみにしてるよ!」
天童がニコニコしながら会話を終えた。携帯を牛島に返し、目がギョロギョロして仲間を見て笑った。
「大成功だね!」
意地悪ではないが奇妙な微笑みだった。
「マジか。よくこんなめちゃくちゃな誘いにのってくれたな…」
呆れた顔で瀬見が嘆き、そして無慈悲にツッコんだ。
「てか、いきなりデートなんて言うなよ、それにあんな馴れ馴れしい口調でちゃん付けで呼ぶのはすげえキモイ」
「若利の都合聞かなくても良いのか?」と大平が注意した。
「大丈夫!だって若利くんの週末ってだいたい自主練漬けじゃん」と天童は自信満々に言った。「それにね、ちゃんはバレーやりたいと言ってたよ。付き合ってくれるよね若利くん」
牛島はしばらく沈黙して、「バレーなら問題ない」と淡々と承諾した。
「ほんと天童って、何考えてんのか分かんねえ…」瀬見が呻いた。
天童は、未だに無表情のまま緑茶を飲んでいる牛島を見やった。
「若利くん反応薄いよ。もっと俺のデートに興味を示してくれない?」
牛島は首を傾げ、少し間を置いてから、「健闘を祈る」と答えた。
今度は天童が味噌汁を吹き出してしまった。
(つづく)