第2章 名案
そして天童は、昼食の時先日の奇遇をネタにしてみた。予想通りに予選敗退で重くなった空気を一掃し、仲間たちは良い反応を示してくれた。
「マジか、あのストイックな若利が?」
「女子!?アイツ女子と話す会話力ちゃんと持ってんのか!」
「デショ!若利くんだから驚いたヨ」
騒いでいるうちに、話題の主となった牛島は、大盛りのハヤシライスを持ってきて、黙々と天童の隣りに座った。自身がの注目の的となっていることにも気付かず、平然と昼食を食べ始める。
「若利くん、今の話について何かコメントある?」
天童が発話権を渡した。
「ん?」と、牛島は疑問の表情を浮かべて天童に視線を向けた。
「試合後のことだよ!若利くんが、自販機の近くで女の子と喋ってたのみたよ。誰その子?カノジョ?」
「隣の家の幼馴染だ」
牛島は顔色を変えずにどんどんご飯を進めている。
「なんて名前なの?」
天童は攻め続ける。
「だ」
うわ、若利の口から女子の下の名前か、と瀬見が何故か涙目で呟いた。
「へえー。てか、いつもそんなふうに話してんの?」
「この前はしばらく会っていなかったから、いつもではない」
天童は、ギョロリと目を光らせた。
「んじゃあ、若利くん、携帯貸して!」
「何故だ」
「いいから貸して!」
牛島は少し不審げに眉を寄せつつも、携帯を出して彼に渡した。
天童は当たり前のように携帯を受け取り、「若利くんの待受画面本当ダサいよね」とさり気なくツッコミを入れながら電話帳を開いた。
「お前失礼だな」と瀬見はカレーを食べながら言った。自分の私服が天童に同じようなコメントを言われたせいか、声はよっぽど荒々しい。
「連絡人…お、これだっけ」
「おい、お前何する気だ!」と瀬見が叫んでいるうちに、天童は発信ボタンを押した。
大平は、しまった、という表情で嘆いた。
だいたい、こういう時の天童が考えたことは常識をはるかに超えるものである。
が、今度彼の提案は再び、彼らが考えた「常識はずれ」を見事に超えてしまった。