第1章 着信
春の高校バレー、宮城県代表決定戦が終わった後のことだった。
「お、、着信入ったぞ」
涼しくて爽やかな月曜日。普段と変わらず、クラスメートと会話をしながら昼ごはんを食べていた。最近のお昼は、男子バレー部の二年生レギュラーメンバーが教室の後ろに集まって先週の試合の話で盛り上がっていた。決勝戦で勝った彼らは、烏野何年ぶりの春高への切符を手にした。私も、校長先生のいきなりの命令で、クラス全員と共に慌てて前日の放課後に残って練習し、それから当日応援団として行った。実は学校側の事情がなくても試合を見に行くつもりだったけど、それはまた別の話。
でも、鳥肌が立つほどの熱い試合を最後まで見届けて、そして応援団の形で彼らの力になれて良かったなと、彼らの会話を聞きながら改めて思った。
「だからノヤっさんすげえよ!よくあんなボール拾えたな!」と、すこししゃがれた声で田中くんが賞賛した。もう試合が終わってからずっと勝利の余韻に浸かり、休まず溢れ出し続ける熱意を語ってきたから、もう疲れが溜まっているんじゃないかなと思ったら、やっぱり過剰なエネルギーを消耗しきるまでには、まだまだ先が長い。
「よく覚えてないんだけど、もっかいやってみてえな!」
西谷くんは歯を見せて得意げに笑っている。褒められるとすぐ調子に乗るけど、私は決して嫌いじゃない。むしろ普段から色々バレーの話を聞かせてもらって、面白い人だと思っている。
その途端、机の上に適当に置いてあった携帯が震えだした。
最後の攻防の話を聞いて夢中になった私は気づかず、教えてくれたのは同じクラスの縁下くんだった。
「ごめん、ちょっと確認するね」
発信者の名前をチェックしたら、私は思わず見張った。
久々に、あの先輩からの着信だった。
あれ?
こんな時点で連絡するなんて、どう思っても怪しい。しかも、普段先輩からの着信は殆どなかったのに。
「どうしたの?」と縁下くんが聞いた。
「電話、行ってくる」
私は携帯を掴んで廊下に向かった。