第2章 引
「信、誰ぞ倒れちょる」
誰だろう。
声が聞こえる。
「お前、こんな所に行き倒れなんて、いるはずねぇだろ」
頭打って、医務室で眠る私は。
行き倒れでは、ありません。
「えるふ、ですか?」
「近う寄ってみんと、皆目判らん」
「見てこい、お豊」
「おいがか?」
「お前が」
サクサクと、草を踏む音が近づいて。
頭上に影が落ちる。
「おなごじゃ」
その声は、驚きを秘めた響きを残して。
サクサクと、足音は遠ざかっていった。
「信、おなごじゃった」
「イヤ、起こせよ」
「あれは誰ぞ」
「知らねーし」
「生きてます?」
「寝とる」
「起こしてこい」
「おいがか?」
「お前が」
「嫌じゃ」
「何で」
「嫌じゃ」
「だから何で」
「嫌じゃ」
「面倒くせぇな。与一、お前が行ってこい」
少し離れた位置から、複数の声が聞こえる。
サクサクと、また違う足音が聞こえて。
さっきよりも近くで、声が聞こえた。
「貴女は誰、ですか?」
えーと。
声を掛けられているのは、やっぱり私?
「貴女は、どちらに?」
どちらって、どういう意味でしょう?
「お仲間なら、手荒な扱いは……しませんよ」
優しい問い掛けから一変。
トーンの変わった声に、悪寒が走る。
『このままだと殺られる!』
身の危険に、恐怖心を奮い起たせて。
勢いよく、目を開けた。