第2章 引
「当ったり前じゃ」
然も当然と言うように、“織田信長”は笑った。
「私も異論はありませんよ」
美少年“なすのよいち”も頷く。
「…………」
私を凝視する“しまづとよひさ”は。
「いいな、お豊」
二対一の多数決に圧されて、渋々頷いた。
「…………ありがとうございます」
私は姿勢を正して、深く頭を下げる。
単身、放り出される心配はなくなった。
「私、何もお役に立てませんけど」
先に言っておきます。
本当に、何もできないんです。
いたたまれない気持ちに、俯いてしまう。
三人の視線が集まるのを、肌で感じる。
それから、僅かな静寂の後。
「男所帯に、紅一点。いいのぉ、華があるのぉ」
そう言いながら立ち上がった“織田信長”は。
私の前で、ピタリと止まる。
「俺達は、戦の最中だ。出来うる限り、お前を護ってみせようぞ」
歴史の授業で習った“織田信長”は。
第六天魔王と恐れられる、冷徹な武将だった。
うつけと呼ばれる人だった。
目の前に居るこの人は。
私の不安を凪ぎ払うように。
「お前の命、この第六天魔に預けてみよ」
そう言って、また私の頭を撫でた。
「……はい」
今の私は。
跪いてでも、彼等に縋るしかないのだ。
掌を乗せられたまま。
「お願いします」
私は、“織田信長”を見上げて笑って見せた。
「まぁ実際は、お豊が何とかするんだけどにゃー」
五十路の俺には無理だから。
そう続いた言葉に。
更なる不安が伸し掛かったのは、言うまでもない。