第2章 引
石造りの黒い穴の先に。
言葉通りに、放り出されて。
段差を踏み外して、前のめりに転ぶ。
「痛っ」
膝を打って、その場で転がり回る。
素面で、こんな転び方する人いないでしょ。
『膝擦りむくなんて、久々だ』
ちょっと、笑いが込み上げる。
「しかも、両膝から流血って……」
背中のリュックサックから、ウェットティッシュを取り出して。
膝の汚れと血を拭う。
帰る前に、一張羅に着替えたことが。
仇になってしまった。
いつもの格好なら、怪我してなかったのに。
『破けなかったのが救い』
自分の傷より、服の心配するくらいなら。
『お洒落なんて、するもんじゃない』
立ち上がって、汚れを払って。
絆創膏を貼って、落ち着いたところで。
現状を把握しようと、辺りを見回した。
「……何処ですか、ココは」
草原?
草むら?
どちらの表現があってるの?
林?
森?
後ろには、石造りの建物。
ボロボロだけど……お城?
「何処なんだろう?」
とても静かだ。
時々、鳥の鳴き声が聞こえる。
風の音がする。
見慣れない大自然を目の前に。
これは夢なんじゃないかと。
あの妙な白い廊下から、今、立っているこの場所まで。
全部、何かを暗示する夢だと。
そう勝手に決めつけるには、十分な。
「膝、痛い」
身体的痛みを伴う夢って。
階段から落ちた?
で、気絶したとか?
今は、医務室のベッドの上かな?
だとしたら、暫く寝てればいいかな。
きっと、目が覚めたら。
医務室の天井が視界に入るはず。
それまでは、夢の中だけど。
果報は寝て待て。
誰もいないから。
滅多な体験じゃないから。
大自然に囲まれて、ここで寝てしまおう。
ポジティブシンキング。
きっと、大丈夫。
根拠のない、大丈夫だけど。