第2章 引
「次」
その声に視線を向けると。
無数の扉が並ぶ、白い廊下。
立派なデスクの向こうに座する、眼鏡のおじさんと目が合った。
「次」
もう一度。
その人は、機械のように同じ音を発して。
目を逸らすことなく、私を見ている。
「えーと、ココは何処ですか?」
だって、さっきまで構内にいたのに。
半歩前を友達が歩いてて。
ほんの一瞬、階段の踊り場から外に視線を向けただけなのに。
『行くよ、』
その声に、一歩踏み出した先が。
こんな場所なんて。
絶対、おかしい。
フル回転の思考回路を辿っていると。
眼鏡のおじさんは、高級そうな万年筆で。
カツカツ、サラサラと文字を書く。
その瞬間。
身体が引っ張られた。
腕を引かれるとか。
そういう感じじゃなくて。
引力?
抗えない、強引な力で。
石造りの先にある黒い穴に。
反論の余地もないままに。
抵抗の間もなく。
言葉の通り、吸い込まれた。
ああ、神様。
これは、何の罰ゲームですか?
怖いよりも、腹が立つ。
明日から。
楽しみにしていた週末なのに。
何で、こんなことになったのだろう?