第2章 引
「ちょっと手狭だが、」
そう言って案内された廃城は。
雨風を凌ぐには、忍びない状態だ。
幸いにも、寒さを感じる季節には遠いようで。
穴が空いた壁は、あまり気にならない。
キョロキョロとその空間を見回していると。
「まぁ、座れ」
織田信長に促される。
私は彼の正面の木箱に、腰を下ろした。
「で、、お前はどうやって此処に来た?」
その質問を、脳内で反芻する。
夢の中です、そう答えていいものか。
それとも……?
「俺達は皆、石造りの通路の男に会った……気付けば、この世界に『居た』」
「!」
「心当たりがあるな?」
「……はい」
少しずつ暗くなる空が。
少しずつ不安を煽る。
あの警鐘は、気のせいじゃない。
きっと、耳を塞ぎたくなるような悪い知らせを。
この中の誰かが、私に告げる。
「暫しお待ちを」
美少年“なすのよいち”はそう言って、慣れた手付きで火をくべる。
パチパチと音を発てて、火と煙が上がる。
「あの……此処は、何処でしょう?」
薪の火が揺れる様も。
その熱も。
夢とは思えない程に、鮮やかだ。
「夢ではなか」
その声に、視線を向ける。
「……おいも、最初はそう思ったど」
壁に凭れた“しまづとよひさ”は。
遠い昔を懐かしむように、口角を上げて。
「夢ではなか」
もう一度、そう言った。