第1章 何光年でもこの歌を口ずさみながら【同田貫正国】
白い雪で覆われた景色は、一転して薄暗い庵に移った。
あちこちで戦で傷を負ったり、病に倒れたりした兵が転がって地獄の様相を呈している。
「結局、アイツとん約束……守れそうに、なか……」
その中に、かつての同田貫の主の姿もあった。
「俺はもう、駄目ばいね……来世でなら、アイツと……いや、来世まで今生の記憶……持ってけるかねぇ……」
男の息は絶え絶えで、今にも生命の炎が燃え尽きそうであった。
同田貫は、それをただ見つめるしかできなかった。
やがて、男の手が同田貫に伸びた。
「なぁ、ワルに頼みがあったい……今生やなくてもよか……アイツの来世ん時でも、その次の生の時でもよか……。アイツとん約束、代わりに果たしてくれんね……刀のワルなら、何代も世を越えられるかも、しれんけん……頼ん、だ」
あぁ、そういえば、こんな馬鹿な主もいたっけな。
同田貫は自分を握りしめる男の手が冷たくなっていくのを感じながら、そう考えた。
女との約束を、刀の自分なんかに託した馬鹿な男。
そんな主がーー。
「だけどそれを、果たさなきゃいけねぇんだよ!!」
同田貫は重い体を起こすと、一閃、自分を取り巻く遡行軍を斬り裂いた。
途端に敵の体が幾つも霧散する。
刹那、同田貫は莉央を抱える敵との距離を詰めた。
「悪いが、そいつは返してもらうぜ」
同田貫は刀を大上段に振り上げた。
「話さなきゃいけねぇことが沢山あるんでな!!」
そして敵の頭にそれを振り下ろした。
たちまち敵の頭蓋が割れ、霧散する。
そして地に落ちる莉央の体を受け止めると、地面に膝をついた。
遠く、沢山の足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
それはよく聞きなれた足音だった。
(援軍か……それなら、もう心配いらねーな……少し、休ませてもらうぜ……)
莉央を抱き締めながら、同田貫は地面に伏した。
(あんたに、伝えなきゃいけねーことが、沢山できちまったな……)
再び薄くなる意識の中で、同田貫はゆっくりと莉央の髪を撫でた。