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付喪神様の御座します処【刀剣乱舞】

第1章 何光年でもこの歌を口ずさみながら【同田貫正国】


雪で濡れる庭を、同田貫は走った。
主を抱えた敵に追いついたのは、本丸からそう離れていない場所であった。
その背中を見るや、同田貫は音もなくそこに斬りかかる。
しかしそれよりも早く、敵は身を翻して莉央を盾にした。
同田貫はすんでのところで身を捩り、強引に自身の下ろす刃の軌道を変えた。
「くそっ!!」
その反動で地面に追突するように転がる彼の体。
しかしそんな同田貫に向かって、別の刃が次々と降り注ぐ。
彼の体がその刃に切り裂かれ、辺りの雪に赤を散らした。
いつの間にか、同田貫の回りには時間遡行軍の部隊が取り囲んでいたのだ。
「ぐっ……」
ぐらりと同田貫の視界が揺らぐ。
彼の揺れる視界が、残雪に散った自身の血液を映す。
止めどなく流れるそれを、同田貫は薄れゆく意識の中で眺めているしかできなかったーー。




ーーそれは、雪が舞うある日のことだった。
『ほら、雪が降ってきたけん、お前ももう戻りなっせ』
そう言った男は、腰に『自分』を差していた。
夢か、幻か。今の同田貫には、その光景がどちらであるか判別できなかった。
男の視線の先には、女が一人、傍らの高木を見上げていた。
その高木は雪を被りながら、蕾を膨らませていた。
『結局、優之介さんと一緒に椿ば見れんかった……ここん椿がいっちゃん美しかばってん……』
不満気に頬を膨らます女に、莉央の面影を見た。
『そぎゃん言うたって、しょうこつなし。こんで見てたからって咲くわけじゃなか。来年もあったい、そん時で……』
『ばってん……!! 去年は父上に会うんば反対されて……今年は優之介さん、戦ば行くけん……そしたら来年は……』
女は悲しげに目を伏せた。
けれど男は、ただ優しく微笑んだ。
『すぐ帰って来るけん、な? そん時一緒に見ればよか』
『……ほんなこつね? ほんに、一緒に見てくれんね?』
女が男を見上げた。
『約束たい。来年、戦から帰ったら一緒に椿の花でも、何でも見てやるけん……』
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