第1章 何光年でもこの歌を口ずさみながら【同田貫正国】
目を開けると、見知った天井が見知った顔を乗せて出迎えてくれた。
見知った顔は、今にも泣き出しそうである。
「あ……」
「たぬき!! よかった!! 目、覚ましてくれたねぇ!!」
同田貫がその顔に声をかけようと口を開いたと同時、莉央が同田貫の胸に飛び込んできた。
「よかったよぉ!! 目、覚まさなかったらどうしようかと!!」
「いてぇよ!! 傷口開くだろ!!」
ごめんねぇ、と謝りながら莉央は同田貫から体を離した。
「あのね、他のみんなは無事だよ……たぬきが頑張ってくれたから、私……」
莉央の目から涙が溢れる。
「落ち着けって……」
同田貫は重い体を持ち上げて、その涙を拭った。
莉央の肩越しに、閉めきられた障子が目に入った。
「……ここじゃ、椿は見れねぇよな」
「うん、手入れ部屋からそんなの見えたら、不謹慎もいいところだからね」
莉央は頬に触れる温もりを感受しながら答えた。
「キレーな花なのに、勿体ねーな」
「え?」
莉央は同田貫の横顔をまじまじと見つめた。
「ガラじゃねぇのは分かるけどよ、前の主にいたんだよ。女との約束を刀なんかに託したヤツがさ。……最期まで、あんたの話をしてた」
「たぬき、もしかして、優之介さんの記憶……」
「……どっから話すべきなんだか」
それを聞いた途端、莉央の表情がパッと明るく晴れた。かと思うと、莉央は同田貫の体に飛びついた。
「だから、痛いって!!」
「だって、思い出してくれたんだもん!! 嬉しいわよ!!」
一頻りはしゃいだ莉央。
ふと、彼女は同田貫を見上げた。
「もし、私の前世がさ、あなたと関係のない人でも、たぬきは私と椿を見に行ってくれた?」