第1章 何光年でもこの歌を口ずさみながら【同田貫正国】
やがて季節は巡り、北風が彼らの本丸を抜けていく。
「全く、刀が農作業なんて、雅じゃない」
「いいから黙って手を動かせや。作業終わんねぇぞ」
同田貫と歌仙は二人、寒空の下で畑を耕している。
「そういえば、最近他の本丸で時間遡行軍の襲撃があったらしいね」
歌仙の言葉に、同田貫は振り返った。
「執念深いやつらだよ、本当に。……僕たちも、念のために備えとかないとね」
歌仙は深々とため息をついた。
「……ところで、君は今日近侍だっただろう? そろそろ彼女の元へ行ったらどうだい? 残りは僕がやっておくから」
「……本当だろうな?」
同田貫は不信の目を歌仙に向けた。
「仕方ないだろう? 全く、何故主は近侍に畑仕事をさせるんだろうね。これじゃ僕の負担が増えるじゃないか……」
文句を言いながらも、歌仙は鋤を振り上げる。
「悪ぃな。んじゃ、先に失礼するぜ」
そう言って同田貫は、農具を仕舞って畑を後にした。
同田貫は執務室の扉を開け、莉央の姿を探した。
莉央は机に突っ伏して、うたた寝をしていた。
「仕事も途中じゃねぇか……ったく……」
同田貫は彼女の手元の書類の山を眺めながら、呟いた。
しかしそう言いながらも、同田貫は押し入れから毛布を取り出して彼女の肩にかけた。
同田貫は莉央の寝顔をまじまじと眺めた。
彼は顕現した時以来、時折莉央の語る前世の話を思い出していた。
しかしながら、彼の記憶にはーー少なくとも表層上の記憶にはーー彼女の前世の想い人の記憶はない。
莉央は気にしていないように振る舞ってはいるが、顕現早々に訊ねてきたことがどうでもいいという訳でもないだろう。