第1章 何光年でもこの歌を口ずさみながら【同田貫正国】
莉央は本丸内を案内しながら、すれ違う男士達に同田貫を紹介した。
やがて本丸内を一巡した二人は、再び執務室に戻ってきた。
「遠征に行ってる人達への紹介は後々やるとして、次は同田貫の部屋を決めなきゃね。普通なら来た順で適当に割り振られるけど、何か希望とかは……」
莉央は机から紙と筆を取りだした。
その様子を尻目に、同田貫は障子の外に目をやる。
彼は視線の先に、青々と生い茂る高木を捕らえた。
彼の様子に気づいた莉央は、ぱっと表情を明るくさせ、彼の隣に並んだ。
「椿の木だよ。好きな花だから植えてもらったの。とはいえ、椿は縁起のいい花じゃないからここからしか見えないようにしてるんだけど。きれいなんだけどね~。咲いたら見に来る?」
同田貫は自分の隣に並んで椿を見つめる審神者を見下ろした。
『……と一緒……ば……かった……』
ふと同田貫の目の前に、現実のものではない光景が浮かんだ。
そして目の前の審神者に、別の女の横顔が重なる。
それは雪の降る野山の景色であった。女は蕾のつけた高木を見上げ、何か喋っているようだったが、その声はまるで雪に溶けているようで、何も聞こえない。
同田貫は思わず、彼女の肩に手を伸ばして掴んだ。
「……? どうしたの?」
莉央は突然の彼の行動に、不思議そうに同田貫を見上げた。
「いや……何でもねぇよ。それより、部屋割りの話はどうなったんだ?」
「あぁそうだったそうだった。えーとね……」
莉央は再び机に戻っていった。
その最中、同田貫は先程の幻影を振り払うように頭を降った。