第6章 君の笑顔を数えよう【にっかり青江】
それは莉央が各本丸の審神者が集まる定例会議に参加した時のことだった。
『○○本丸はまた強敵を倒したらしいな……』
『先日■■本丸がまた新たな刀剣を降ろしたらしい』
会議の間の休憩時間、莉央は一人うつむきながら自席に座り、時折聞こえてくる他の審神者の会話の一つ一つに愁いを感じるのだった。
莉央は特別霊力が強いわけでも、知略に長けるわけでもない。
(もしももっと、私に力があったら……)
そうして時折、莉央は自分の無力に嘆くのである。
今日も勿論、例外ではなく。
莉央は自分の胸中に、黒い淀みが溜まっていくのを感じるのであった。
「あのあやかしは……多分私がそんなことを考えていたから、生まれたのかもしれない。ごめんなさい、青江。余計なことを起こしてしまって……」
「なるのどねぇ……」
二人は莉央の執務室に場所を移した。
莉央の話を聞く青江は、机に肘をついて
耳を傾けている。
「私ったら、審神者失格かもね……。……時々思うの。私、本当にちゃんとやってけるのかなぁとか、不安になるの」
深くため息をつきながら漏らす莉央の横顔を、青江は見つめ続けた。
「莉央」
ふと聞こえた自分の名前に、莉央は驚いて顔を上げた。
それと同時に、額に柔らかい感触がぶつかる。
莉央の視線の先には、青江の肩口がたる。
「今の僕には、高尚な説教はできないし、祝詞を上げることもできないけど、まぁ軽い願掛けならしてあげられるんだよ」
莉央は彼が触れた額に指先を這わせながら、目の前の刀を見上げた。
彼はいつもと同じ、透明な笑みを湛えている。
「……もぅ、そんなことされたら、私……」
莉央の瞳から、糸が切れたように雫が落ちる。
けれどその顔は、晴れやかな色である。
そんな二人の部屋には、ただ朝焼けの輝きが降り注いでいた。