第6章 君の笑顔を数えよう【にっかり青江】
一歩、青江が莉央に近づく。
その異様な雰囲気に、莉央は後退りをしようとした。
けれど、青江の鋭い瞳はそれを許さない。
「君の中に隠されていた……とかね」
青江の指先が莉央の首筋に伸びる。
その指先が莉央の肌に触れる寸前、しかし莉央は身を翻してそれを避けた。
「な、何言ってるの!? 私がそんなことあるわけないって!! 何を根拠にそんな……」
莉央は内心、怯えていた。
目の前にいる自分の刀の指先が、まるで自分の内側に入り込もうとしているように感じたからだ。
無論、莉央はそんなものに心当たりはない。
けれどその刀の不適な微笑みを前にしていると、強い重圧を感じて、まるで自分が罪人であったかのような感覚すら芽生えて来るのだ。
ただただ自分の肩を抱いて目を泳がす莉央を、不憫に思った青江は、苦笑を浮かべながら肩をすくめた。
「そこまで脅かすつもりはなかったんだけどなぁ。ただ……僕は君の本心を知りたいだけなのに」
「……え?」
その時、生ぬるい風が二人の間を通りすぎた。
風は青江の長い前髪を揺らし、その下の赤の光を露にさせた。
「ほら、こっちを見て」
莉央はふと優しくなった青江の声に、反射的に顔を上げた。
その言葉はごくごく自然に、莉央を青江が与える赤の中に引き込むのだった。