第6章 君の笑顔を数えよう【にっかり青江】
「……来るよ」
青江が『それ』から莉央を庇うように、彼女を自分の背に押しやった。
『それ』は不定形な見上げるほどの巨躯を大きくうねらせ、姿を現した。
「これが、あやかし……?」
莉央は青江の横顔を見上げた。
彼の長い前髪に隠された横顔。
けれど莉央には不敵に笑っているようにも見えた。
「こんなに大きくなってしまうなんて、いけない子だねぇ。僕の主が不安がってるじゃないか」
青江は刃を構えると、切っ先をあやかしに向けて定める。
そしてそれは、刹那に終わりを告げた。
あやかしが不定形の躯を莉央目掛けてうねらせた瞬間、青江はあやかしに向かって踏み込んだ。
水平に振られた刀は呆気なくあやかしを2つに裂いた。
あやかしの姿が虚空に霧散する。
静寂。
「あ、あの……」
莉央は今もまだ刃を振り下ろしたままの姿勢の青江を恐る恐る伺ったら。
ふと、青江がまるで緊張の糸が切れたかのようにだらりと腕を下ろした。
それを見た莉央も、同じように安堵のため息を漏らす。
「……こんなに大きくなるなんて、おかしいと思わないかい」
「え……?」
莉央は突如放たれた青江の言葉の真意を理解できずに、眉根をひそめた。
「ここにあやかしが出たのなら、誰も気がつかないなんてありえないだろう。例え僕が気がつかなかったって、例えば石切丸だって、太郎太刀だって、恒次だって、他にもこの手のものを感じられる刀はたくさんいるんだ。それならばもっと小物の時に退治されてたろうに」
まるで独り言のように紡がれる言葉が、莉央にはなんだか冷たく感じられた。
「それじゃあ何で誰にも気づかれずにここまで成長できたのだろうか? この図体でここに侵入しようとした? いいや、近づいた時点で門前払いされるはずだ。なら、外から持ち込まれたものが、僕たちの感知できない場所……例えば」
青江がゆっくりと莉央に振り返る。
莉央と視線がぶつかった青江の表情は、闇夜に浮かび酷く艶かしく感じられた。