第6章 君の笑顔を数えよう【にっかり青江】
別に、今の自分に不満や不足があるって訳ではないんだけど。
青江は星の光の差す自室の天井を、ぼんやり眺めながらため息を吐いた。
布団に潜り込んだ彼は、今日に限ってあまり寝つけないのである。
(でももしも僕が君と同じような存在だったら、なんてことを考えない訳でもないんだよねぇ)
青江は莉央と並んで座る数珠丸恒次の姿を思い出した。
彼はどれ程途方もない数の人間を救って来たのだろうか。
そしてその場所の居心地は、どんなものだろうか……。
(なんて、あんまり僕らしくないねぇ。知らないうちに、人間の低俗な感情を覚えてしまったかな)
青江は自嘲の笑みを漏らしながら、伸びをして上体を起こした。
それとほとんど同時に、そっと彼の部屋の障子が開いた。
「……起きてる?」
「おやおや、こんな時間に訪ねて来るなんて……君も随分積極的だねぇ」
青江は障子から顔を覗かせる莉央だった。
そんな莉央は、何かに怯えているような青い顔をしている。
「じ、実はね……」
青江と莉央は、二人並んで裏庭の小さな蔵に足を運んだ。
「確かに、何かいるねぇ」
莉央の話によると、先程ここに仕舞ってあった書類を取りにやって来たところ、誰もいないはずの蔵にも関わらず、物音や泣き声が聞こえてきたらしい。
「だよね、何かいるよね……。どうしても必要な書類なんだけど、これじゃあ取りに行くのも恐くて……一瞬に来てくれてありがとう」
「まぁ、ついでだしね。たまには掃除なんてのも悪くはないよね」
青江はゆっくりと蔵の扉を開けた。
木製の扉が軋む音があたりに木霊すると、蔵の黴たような臭いが二人の鼻孔をくすぐる。
二人は、一歩、また一歩とその蔵の奥へと進む。
蔵の中は整理はされているものの、真夜中に歩くには些かものが多すぎる。
それは二人が蔵の中ほどまで進む時に起こった。