第6章 君の笑顔を数えよう【にっかり青江】
「おや、お楽しみ中だったかな」
次の日の昼すぎ。
報告書を手に持った青江は、主・莉央の執務室に足を運んだ。
そこには莉央だけではなく、数珠丸恒次もいた。
「青江ですか。お帰りなさい。ちょうど主とお茶をしていたんです。貴方もどうですか。……と言っても、私も遠征に行かなければならないので、そろそろお暇するところでしたが」
数珠丸の隣では、莉央もお帰りなさいと優しく微笑みながら手を振っている。
「いいや、僕はこれを出したらもう休むよ。……ほら、これが欲しかったんだろ?」
青江は莉央に報告書を手渡した。
「うん、お疲れ様。怪我はなかったようね」
莉央は青江から受け取った報告書をパラパラと捲ると、彼を見上げた。
「ま、そういうことだから、僕はもう休ませてもらうね」
「それでは私もこれで」
二振りの刀は主に一礼すると、執務室を後にした。
「で、君は主と何を話していたんだい?」
青江は、本丸の廊下を一緒に並んで歩く数珠丸を見上げながら訊ねた。
「お話を聞いておりました。……最近、戦いも激化しておりますから、精神的にお疲れのようでしたので。彼女、審神者の集まる定例会議に参加するたびに疲れを見せているでしょう? 何かあるのかもしれません」
数珠丸は憂いを帯びた瞼を地に伏せながら答えた。
「なるほどねぇ。衆生済度だっけ。僕には到底マネできないよ。五劫の擦り切れ海砂利水魚の……なんて君達の使う数字の単位は馬鹿みたいに大きすぎる」
青江は大袈裟なため息を吐いた。
「それでも、それが私の役目ですから」
凛々しい数珠丸の言葉と表情。
それを感じた青江の口角が、ほんの一瞬だけ強ばった。
「ところで、貴方も何か悩みがあるのですか?」
それを見透かされたのか、はたまた偶然か。
数珠丸が優しげに微笑みながら青江を見下ろした。
「いいや。ただ君には敵わないなと思っているだけさ」
青江は数珠丸から目を反らすように真っ直ぐに廊下の先を睨みながら、歩を早めて自室へと向かった。
数珠丸は静かに彼の背中を見送るのであった。
そんな最中、数珠丸は何かの気配を感じて振り返った。
彼が振り返った先には、本丸の裏庭に造られたちいさな蔵があった。
(……まさか)
数珠丸は不吉な予兆に眉根をひそめた。