第5章 time after time【山姥切国広】
「はい、お待たせ!」
莉央は2つ持った紙コップのうち、一つを山姥切に手渡した。
コップの中には、薄緑のような、茶色のような液体が入っている。
「……奇妙な味だな。本丸で飲んでるお茶と全然違う」
それを一口飲んだ山姥切が、不思議そうに紙コップを眺めた。
「甘茶っていうの。お祭り中に配ってくれるんだって」
莉央もコップに口をつけてその味を堪能した。
二人の頭上では、川面へ伸びる桜の木の枝が満開の花をつけて伸びている。
「桜、きれいだねぇ」
「そうだな」
莉央は水面に写る桜を見下ろしながら呟いた。
山姥切もそれに短く答える。
川面を見下ろす二人の後ろを、祭りではしゃぐ子供が走り抜け、春の暖かい風が吹き抜ける。
「ねぇ、山姥切。来年もふたりで、お祭りに来れるといいね」
そう言った莉央の表情を、山姥切は一瞥すると、再び川面へと視線を移した。
「どうだろうな。闘いが更に激しくなれば、そうも言ってられないだろう。だけど」
「だけど?」
ふと、山姥切が再び顔を上げた。
すると主の瞳と自分の瞳がぶつかる。
山姥切はとっさに顔を伏せて、布を深く被った。
「ねぇどうしたの?」
「何でもない。忘れてくれ」
彼の動揺は、莉央にも十分伝わった。
けれど莉央が、深くは追及することはなかった。
(またいつか、来ようかな)
その次の言葉はその時に聞くことにしよう、そう思って。
「さ、帰ろっか」
「……その前に、買い出しだろ」
「あはは。そうだね」
莉央と山姥切は、二人並んで緩い坂道を上った。
ふと、二人の指がお互いの指に触れた。
その指は、どちらからともなく絡み合うのであった。