第5章 time after time【山姥切国広】
(結局、次の機会なんて来なかったけどね)
莉央は一人、いつか山姥切と座った川縁に腰をかけていた。
その後、彼が言っていた通り、戦は激化。
そしてその戦が終結したと同時に、莉央は審神者を解任され、彼らとも離ればなれになってしまった。
冷たい風が、莉央の頬を撫で付ける。
桜は散ったとしても、まだ寒さがぶり返す季節。
莉央は薄着を着てきてしまったことを、後悔している。
(まぁ、闘いが終わったことに関して言えば、喜ばしいことなんだけど……)
遠く過ぎ去ったあの何気ない季節たちを、莉央は時折思い返しては愛しく胸が痛むのである。
もう戻れないことは分かっている。
けれど……せめてこの場所にもう一度、彼と訪れたかったと、莉央は悲しそうに微笑んでいる。
あの日の言葉の続きを聞くためにーー。
その時、一陣の風が川面を走った。
それはこの気温に相応しくない、暖かな風だった。
風は川面を生める花筏を散らす。
(え……)
莉央は目の前に現れた光景に瞳を見開いた。
姿を表した川面には、大きな桜の木と自分が写っている。
ーーずっと前に離ればなれになった、大切な人と共に。
「や……やま……」
彼女は隣を振り返った。
けれどそこにあったのは、ただの祭りの賑やかさである。
莉央は瞳を伏せて、深くため息をついた。
(いるわけ、ないか)
けれど莉央は、川面に写った彼の姿を、きっと永久(とわ)に忘れることはないだろう。
川面の彼が呟いた、あの言葉の続きも。
(……帰ろうか)
莉央は立ち上がり、来た道を引き返していった。
その足取りは、ここへ来たときよりも心なしか軽やかであった。
今度こそ、ずっと側にいられることを願って。